エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

 なにげなく文くんが呟いた言葉に私はひとこと返し、すぐそばのウォールシェルフに飾ってあるアドベントカレンダーに焦点を当てた。

 アドベントカレンダーとは、十二月に入ってからクリスマスイブまでをカウントダウンするためのカレンダー。

 文くんが言うには、イギリスでは子どもに贈るのがスタンダードらしい。
 十二月に入る直前、なんとなく目について買ってきたと言って、私にくれた。

 赤くて本みたいな仕様で、プレゼントやクリスマスツリーの中に、サンタの服を着た可愛いテディベアが描かれている。

 これがとても面白くて、このアドベントカレンダーはちょっと厚みがあり、数字のところが小さな引き出しになっている。

 中身はキャンディやチョコ、クッキーがランダムに入っていて毎日開けるのが楽しい。
 なによりクリスマスまでのカウントダウンになってるから、子どもみたいにわくわくする。

 ちなみに今日は十四日だから、十四の引き出しまで開けている。明日以降の引き出しは楽しみに取っておいているからまだ開けていない。

 カレンダーの終わりである二十四日までちょうど十日。

「今年の集まりは、クリスマスパーティーじゃなくて年越しパーティーの予定だって言ってたよ。由里子さんから聞いてる?」
「あー、メッセージきてたな。本当毎年毎年……よっぽど親たちも気が合うんだな。もうとっくに親戚みたいだよな」

 私たちの両親は毎年必ず十二月に予定を合わせてパーティーしている。
 私はそれがいつも楽しみだった。

 子どもの頃は純粋に大勢でわいわいと騒ぐのが楽しかったのが大きな理由だった。
 けれど、物心がつき、文くんに想いを寄せるようになってからは文くんに会えるのが一番の理由になっていた。

 でもそれも、文くんが外科医師になってからは、あまり顔を出さなくなって……しまいには留学しちゃって、ずっと寂しかった。

 今年は文くんが帰国してきただけでなく、こうして近くにいられるだなんて、三か月前までの私は想像もしなかった。

 現実の幸せを噛みしめていると、横から視線を感じた気がして振り向いた。
 瞬間――。

「澪」

 ふわりと優しく目尻を下げて、瞬く間にこめかみにキスを落とす。

 羽のような軽いキス。それでも十分私にとっては大事で、心臓が跳ね回る。
 まだ慣れなくて、つい目を逸らしてしまう。

 そんな私に嫌な顔ひとつせず、文くんは壊れ物を扱うかのごとく丁寧に私の頭を撫でる。

「体調も心配だし、それ飲み終わったらもう休もう」
「うん」

 私は温かいホットミルクを喉に流し、身体だけでなく心も芯から温まった感覚になって、その日の夜は腹痛も収まってぐっすりと眠りに就いた。