エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める

「いや……俺は仕事柄つけられないけどミイは問題ないだろう? 一番実感できそうなものかと思って。式についてはもう少しゆっくり……わっ」

 つい感極まって、文くんに抱きついていた。がっしりした身体に腕を巻き付け、瞼を閉じる。

「やっぱり幸せ過ぎて夢の中にいるみたい」

 ぽつっと零したら、頭にポンポンと手を置かれた。

「いいんじゃない? そのくらい浮かれてるってことで。付き合いたてのふたりなんて、案外みんなそんなもんなんじゃないの?」

 そろりと腕を緩め、おもむろに文くんを仰ぎ見る。

 昔から変わらないって思ったけれど、やっぱり少し変化した。
 だって、私に向けてくれる笑顔がすごく柔らかい。

「ん。そういうことにしとく」

 はにかみながらそう返し、私は身体を離してカップに手を伸ばす。

「あ、ひとつ持ってくよ」
「うん」

 それぞれお揃いのカップを持って、キッチンを出ようとした矢先、急に腹痛に見舞われる。咄嗟に前傾姿勢を取った拍子に、カップをシンクへ滑らせてしまった。

 ゴトンという音と、コーヒーが零れる音が派手にしてしまって、文くんは目を剥いて振り返った。

「えっ、どうした!?」
「あ、ご……ごめんね。お腹が痛くなって……。ああ……せっかくのコーヒーが……カップ割れてなくてよかった」

 片目を瞑り笑顔を作って返すも、文くんは急いでカップを置いて、緊迫した雰囲気のまま私を支えて言う。

「それより、痛みは?」
「うん。さっきよりは……。あの……わりと定期的にあるやつだから心配しないで」

「――ああ」

 私の答えに文くんは察してくれたらしく、ほんの少し安堵している様子を感じた。

 定期的に……と説明すれば、月のものだと想像するのが普通だ。
 私は高校生の頃から周りと比べてちょっと生理痛が重いようで、体育があれば決まって見学していたタイプ。だけど、いつからか生理じゃなくても痛む時がある。

 排卵痛とか女性は色々あるみたいだから、そういう類かもしくは仕事とか気持ちが疲れてる時に反応しちゃうのかなと思ってる。

「あとは俺がやるから。座ってな」
「え……」
「いいから。あ、ちょっと座って待ってて」

 文くんは私をソファに促すと、リビングから出て行ってしまった。