「ただいま」
「おかえり。ほぼ同時ね」
夕方に帰宅して玄関に入ると、今しがた靴を脱いだらしい母がいた。
父と母は一緒に帰宅する日もあるけれど、母が先に帰ってくることが多い。
ふたりでリビングへ移動し、キッチンに並んで立つ。
私は包丁で野菜の皮を剥きながら聞いた。
「ねえ。結婚のお祝いって、例えばどういうものがいいかな? ネットでも検索はしてみるけど、情報が多そうで」
「誰か結婚するの?」
「結城さん」
「そうなの~。おめでとう」
「いや……私に言われても」
お米を研ぐ母を一瞥し、苦笑交じりに返す。
「お祝いねえ。なにがうれしいかはやっぱり人それぞれよね。私は結婚した時に、クルージングチケットをプレゼントされたのが印象的だったなあ」
「えっ。なにそれ。素敵」
「でしょう。プレゼントしてくれたのは堂本先生ご夫妻なのよ」
母は当時を思い出したのか、空を見てうっとりとしている。
プレゼントって言えば、形に残るものというイメージがあった。なるほどなあ。素敵な時間とシチュエーションのプレゼントなんてセンスある。
でも、私には真似できないな……。費用の問題ではなく、年下の私じゃ恐縮されるだけなのは目に見えてるもの。
「ああ、そうそう。勉強会で堂本先生に会ったんだって。でね。ほら、この間も話してたでしょ?」
結城さんへのプレゼントで頭がいっぱいになっていたところに言われ、ギクリとする。
堂本先生が関係するこの間の話って言ったら、あの件に違いない。
「お母さん。私まだ結婚とか現実味ないし、相手は自分で……」
「そうは言っても、基本的には籠りっぱなしで、人と会うのも、それこそ今日みたいに結城さんくらいじゃない。別にすぐ結婚してだなんて言わないから、食事だけ行ってきたらどう?」
今日の母はやけに押してくる。
私は皮剥きを終え、一度手を洗い流して母と距離を取る。
「いや……だって、こっちは食事だけのつもりでも、相手は忙しい時間割くわけだし」
「大丈夫みたいよ。堂本先生も、毎日毎日仕事漬けな蓮司くんに、たまには息抜きも必要だって話してたばかりなんだって」
「うーん、だけど外野がそう言ってるだけで」
「どうする? 休みは多くないだろうけど、土日は比較的休みが多いって言ってたはずなのよね。澪が合わせられるわよね。今仕事、立て込んでいないんでしょ?」
まずい。このままだと、食事に行かなきゃならなくなる。
私は調理台に置いた手をぎゅっと握り、勢いよく言い放った。
「……いるの!」
「おかえり。ほぼ同時ね」
夕方に帰宅して玄関に入ると、今しがた靴を脱いだらしい母がいた。
父と母は一緒に帰宅する日もあるけれど、母が先に帰ってくることが多い。
ふたりでリビングへ移動し、キッチンに並んで立つ。
私は包丁で野菜の皮を剥きながら聞いた。
「ねえ。結婚のお祝いって、例えばどういうものがいいかな? ネットでも検索はしてみるけど、情報が多そうで」
「誰か結婚するの?」
「結城さん」
「そうなの~。おめでとう」
「いや……私に言われても」
お米を研ぐ母を一瞥し、苦笑交じりに返す。
「お祝いねえ。なにがうれしいかはやっぱり人それぞれよね。私は結婚した時に、クルージングチケットをプレゼントされたのが印象的だったなあ」
「えっ。なにそれ。素敵」
「でしょう。プレゼントしてくれたのは堂本先生ご夫妻なのよ」
母は当時を思い出したのか、空を見てうっとりとしている。
プレゼントって言えば、形に残るものというイメージがあった。なるほどなあ。素敵な時間とシチュエーションのプレゼントなんてセンスある。
でも、私には真似できないな……。費用の問題ではなく、年下の私じゃ恐縮されるだけなのは目に見えてるもの。
「ああ、そうそう。勉強会で堂本先生に会ったんだって。でね。ほら、この間も話してたでしょ?」
結城さんへのプレゼントで頭がいっぱいになっていたところに言われ、ギクリとする。
堂本先生が関係するこの間の話って言ったら、あの件に違いない。
「お母さん。私まだ結婚とか現実味ないし、相手は自分で……」
「そうは言っても、基本的には籠りっぱなしで、人と会うのも、それこそ今日みたいに結城さんくらいじゃない。別にすぐ結婚してだなんて言わないから、食事だけ行ってきたらどう?」
今日の母はやけに押してくる。
私は皮剥きを終え、一度手を洗い流して母と距離を取る。
「いや……だって、こっちは食事だけのつもりでも、相手は忙しい時間割くわけだし」
「大丈夫みたいよ。堂本先生も、毎日毎日仕事漬けな蓮司くんに、たまには息抜きも必要だって話してたばかりなんだって」
「うーん、だけど外野がそう言ってるだけで」
「どうする? 休みは多くないだろうけど、土日は比較的休みが多いって言ってたはずなのよね。澪が合わせられるわよね。今仕事、立て込んでいないんでしょ?」
まずい。このままだと、食事に行かなきゃならなくなる。
私は調理台に置いた手をぎゅっと握り、勢いよく言い放った。
「……いるの!」



