「家具が逃げるわけじゃない。来週でもその次でも、都合ならつける。まずは体を治すのが先決だ」

意外にも返ってきた言葉が優しかったので、思わず頬が緩む。
そんな私を上から覗き込んだ蓮見さんは、ベッドの端に腰掛けると、上半身を軽くひねって私のおでこに手を当てた。

病人相手にだったら誰でもするような軽い接触だけれど、わずかに胸が高鳴った。
蓮見さんの手は、私のおでこよりも少し冷たい。

「熱はないですよ」
「ある。微熱だな。息苦しさは?」
「ありますけど、これは休めば治ってくるやつなので大丈夫です。……ちょっと、張り切って頑張りすぎただけです」

幼い頃からの付き合いとなる喘息は、成長と反比例して症状として出てくる回数は減ったけれど、完治するものでもないので、疲れが溜まったり体が弱ったりすると出てくる。

かかりつけ医の判断としては、非アトピー性喘息か咳喘息のどちらかで、吸引薬が処方され今も継続している。

月に一度の通院も吸引薬ももう慣れたもので、うっかりすると一日一度の吸引を忘れるくらいには症状も改善している。

それでも、昨日、火曜日に少し空咳が出るなと気付いた時点である程度は覚悟していた。
でも、体力もついてきているしそこまでひどくはならないだろうという私の予想は当たった……ものの。

喘息は軽く済んでも、疲れからくる体調不良はそうはいかず、昨日の夜から寝込む事態になってしまった。

症状は、軽い空咳と呼吸するたびに感じる喉の違和感、それに倦怠感と眩暈に微熱。
しっかり定休の水曜日に体調を崩す自分を、さすが社会人だとほめてあげたい気分だった。