「へぇ。優しい人なんだな。俺だったら部屋に趣味じゃないインテリアだとか絶対に置きたくないし、勝手に配置も変えられたくないけど」

金曜日の午後、モデルハウスのリビングを片付けながら白崎が言う。
今まで白崎の顧客が打ち合わせに来ていたため、使った資料やお子さんが遊んだおもちゃを片付けているところだった。

十月半ばなのに今日は驚くほど暑い。
この時期だと普通はあたたかいコーヒーや紅茶をよく頼まれるのに、今日来たお客様はそろってアイスコーヒーを選んでいた。

季節外れで在庫が切れそうだったため、途中で急遽スーパーにアイスコーヒーを買いに走ったせいで、なんだか体が重い。

疲れが背中に乗っかっているみたいだった。

「優しい……優しいのかな? なんか、ちょっとずつ囲まれてる気がする」

そう思うのは、見たことのないレディース服がクローゼットに入っているのを今朝発見したからだろうか。

一向に服を持ち込まない私に痺れを切らせた蓮見さんが、どうやら私が好みそうなブランドで一式どころか二十式くらい揃えたらしい。
トップスやボトムスだけではなく、アイボリーとキャメルブラウンとブラックの三色のコートが揃っているのを見て、さすがに……と抗議したけれど。

『あって困りはしないだろ。あくまでも既製品だ。必要ならオーダーメイドで作らせる』

話にならなかった。
もし、婚約破棄になってあの部屋から去る日がきても、用意してくれた服まで持って出なければならなくなり……来た時のように身ひとつで、というわけにはいかなくなった。