『その、ふたりで暮らしている部屋なのに全部が蓮見さんの選んだものってなんとなく嫌だなって。これだと、私はただ蓮見さんの部屋に寝泊まりしているだけという感じが否めないというか』
彼女の言い分もわからないではない。
ホームシックにかかられても面倒なので、家具や家電のひとつやふたつで過ごしやすくなるのならまったくもって構わない。
自分で言い出したのにすんなり了承した俺に戸惑い顔を見せた春乃からは、今朝も特に家具のメーカーについて相談されていない。
大手ハウスメーカーの代表の娘であり、自身もモデルハウスの受付という仕事をしているのだから少なからずこだわりはあるだろうに何も言ってこないのは疑問だったが、それならそれで勝手に進めるのみだ。
彼女の好みのテイストに合いそうなメーカーをいくつかピックアップして選ばせればいい。
それで満足するのなら安いものだ。
金で大人しく俺のもとにいるなら、こんなに楽なことはない。
『専務は、今回の契約の向こうまで見越して、〝レイドバッグホームズ〟を選ばれたんですね。あの会社が持っている床暖房設備関係の特許が目的で、さきほど電話でおっしゃっていた〝数ヵ月〟というのは、その期間内に特許を含め〝レイドバッグホームズ〟をわが社で買収する算段というわけですね』
さきほどの瀬野の言葉が頭を過ぎる。
数ヵ月。
それがひとつの期限であるのはたしかだった。
それまでにうまく立ち回り絶対的な信頼を得る必要がある。
宮澤社長からも……もちろん、春乃からも。