視線を向けても、瀬野は臆することなく私見を述べた。

「〝レイドバッグホームズ〟のご令嬢とご結婚なさるという噂もあったので不思議に思っていたのですが、買収という話を宮澤社長に持ち掛けた時の人質だったわけですね。宮澤社長も、愛娘の夫である専務にはそこまで強く出られない……」
「瀬野」

途中で遮り名前を呼ぶ。

その意味に俺の眼差しから気付いたのか、ぴたりと黙った瀬野は瞬間的に焦ったような顔つきになり、それから頭を下げた。

「出過ぎた真似でした。申し訳ありません」
「ああ」
「失礼します」

扉の前で再度頭を下げた瀬野が退室する。

その様子を見届けてからパソコンを起動し、スケジュールを開く。
瀬野と同期させているデータを開くと、最新のスケジュールが表示された。

来週水曜日には記憶していた通り大事な会議も入っていない。それを確認してから、有給を入れると、すぐに〝瀬野〟という文字がその下に表示された。

瀬野が〝了解〟したという意味で、その日俺が休んでも特に問題はないという意味でもあった。

メールの受信件数が一晩で六十件にのぼっていることに辟易しながらも受信ボックスを開く。
届いているメールは、CCに俺が入っているものがほとんどで、直接俺に送られたものは少ない。

優先順位の高そうな件名のメール内容にひと通り目を通してから、残りのメールの件名を確認し、不要なものは消去していく。

朝、出勤してから瀬野が入れてくれたコーヒーを飲み、当日のスケジュールの確認をし、メールを精査する。ここまでが毎朝のルーティンだった。

必要なメールに返信をし終わったところで、昨夜、春乃が言っていたことをふと思い出した。