政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい



「それでね、結婚式だとか入籍はおいおいするにしても、とりあえずは同居しましょうって話にまとまったの。蓮見さんが〝突然入籍するのは春乃さんも戸惑うと思うので〟って気を遣ってくださってね。あちらのご両親にも挨拶は待つよう言ってくださるって……本当に優しい方よね」

私の焦りなんて知りもしない母がニコニコしていった言葉に、ゆっくりと顔を上げた。

「同居って言った?」
「ええ。同居。つまりは新婚生活の予行練習ね」
「予行練習……?」
「蓮見さんの住んでいるマンションでって話よ。さっきも言った通り、春乃ちゃんは身ひとつでいいって言うから、明日には行くって伝えてあるの。あ、これ蓮見さんの住所と電話番号ね」

手渡されたメモを見て愕然とする。

予想していた十倍くらいのスピードで話が進んでいる。
こんなロケットみたいなスピードで娘の結婚話を進めるうちの両親も両親だけど、それを快諾する蓮見さんはだいぶおかしいと思う。

そう考え、ふと疑問が湧いた。

「ねぇ。ところで蓮見さんって誰なの?」

今のところ、提携先の大企業のご子息という情報しか知らない。
母は、食べていたマドレーヌを飲み込んでから笑顔で答えた。

「〝ロータステクノロジー〟の現取締役のご子息、蓮見大祐さんよ」