「いや。もとからひとりで住んでいた。散らかる以外で部屋が広くて困ることはない。今回の同居にあたって変えたのはベッドくらいだ」

〝ベッド〟という単語に、昨日の夜の情事が思い出されそうになるので、慌てて口を開く。

「それにしては生活感がないですよね。初めて部屋に入ったときはモデルハウスみたいだなって思いました。洗濯機とか家電もピカピカですし」
「基本的に食事は外で済ませてきていたし、ここには寝るために帰ってきていたようなものだったからな。キッチンは飲み物以外の準備に使ったことすらない」
「え……じゃあ、私が勝手にキッチン使ったの、相当嫌でしたよね」

キッチンで料理すれば一気に部屋に生活感が出る。

毎回しっかり片付けてはいるつもりでも、行き届いていない場所もあるかもしれないし、料理の匂いもある。換気扇をつけていても、匂いはカーテンやラグにつく。

それは蓮見さんからしたら結構嫌だったかもしれない……と思い申し訳なくなったけれど、返ってきたのは「問題ない」という即答だった。

横顔を見ていても、無理している様子はなくいつも通り涼しいままだ。

手料理を準備されるのが嫌ならキッチンを使うなと怒ればいいし、今はそれを言う絶好の機会だったというのに、蓮見さんは注意もせずに『問題ない』と言う。

もしかしたら、案外心が広いのだろうか。

ふと、私は蓮見さんのことを何も知らないんだなぁと思った。そしてそれを物足りなく感じる自分に気付きそうになったところでハッとする。

全然物足りているし、知らないところでなんの問題も発生しない。寂しくもない。
ほだされやすい自分を知っているだけに気を引き締め、蓮見さんを見た。

「えーっと、じゃあベッド以外の家具やインテリアはもともと蓮見さんが選んで使っているものなんですよね」

話題を少し戻すと、蓮見さんはわからなそうに私を見る。