「私も別に、蓮見さんを楽しませるような経験談はありません。穏やかで優しい人に惹かれて付き合いだしては振られて……の繰り返しを五回しただけです。最初のふたりとはそこそこ続いたけど、あとの三人はあっという間でした」
ほだされやすいことは隠したけれど、〝五回〟という数字は隠しても仕方ないのでカミングアウトする。
また鼻で笑われるだろうか、と思ったのに、蓮見さんはなぜか眉間にシワを寄せ私を見ていた。
「〝穏やかで優しい人〟?」
寝耳に水、みたいな顔で聞かれる。
まるで、1+1の答えが実は2じゃなかった、みたいな。極々まれに実態のある虹が出現する、と知ったみたいな驚愕を浮かべる蓮見さんに、やや困惑しながらもうなずいた。
「はい。そういう人が好きですけど……」
「その他には?」
「その他って、タイプですか? 別にそれ以外はないですけど……どうしてですか?」
そんなに珍しい好みでもないと思うのだけれど、と不安になりながら聞く。
蓮見さんはなにがそんなに信じられないのか、口から下を片手で覆いしばらく私を見ていた。
〝こいつ、本気で言っているのか……〟とでも聞こえてきそうな表情だった蓮見さんは、ややしてからお酒の入ったグラスに手を伸ばす。
そして、それをひと口飲んでから「いや、別に」と答えた。



