私は好き好んでほだされてきたわけじゃない。
ただ、一緒に過ごす時間が増すうちに、私だけに見せてくれるようになった意外な側面だとか、みんなといるときとは違う笑顔だとか、そういう特別に弱いだけだ。
「だからって、会ったこともない相手と結婚なんて……」
「経済力さえあればいいって言ったのは春乃ちゃんでしょう?」
ビシッと言われ思わず黙った。
〝あなたが望んだことでしょう?〟と問う母の瞳には逆らえないので、反論は飲み込むしかなくなる。
「それに、一応仕事の席で出た話で、もうお互いに了承済だもの。今更破棄なんてなったら提携の話にだって響きかねないんじゃないかしら」
紅茶を飲みながら話す母に、眉を寄せ視線を落とす。
たしかに、いくら別の話だとしてもこちらから一方的に破棄するのはまずい気がする。
提携には条件が色々あるのだろうし、私が会う前から婚約破棄なんかしたらそういった条件がこちらに不利になるよう書き換えられたりしてしまう可能性がある。
それに、今回の件は勝手には思えるけれど、元を正せば全部私だ。
両親は私が言っていた〝経済力がある人と結婚したい〟という希望を信じ叶えようと動いてくれただけで、相手の蓮見さんもそれを受け入れただけで……つまり、私の発言のせいであるのは疑いようのない事実だった。
完全に自業自得だ。
当然、過去の自分の負け惜しみを悔やんだし、自分の負けず嫌いの性格も呪ったけれどそんなの後の祭りだ。



