政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい



でも、だって、そんなの当たり前だ。むしろ、体の関係があったにも関わらず、それまでとそれ以降で意識の変化がなにも起こらない方がどうかしてる。

もっと言えば、半月の出張から帰宅した時点で私は蓮見さんに対してちょっとおかしいし、同居初日に持ち合わせていた気合いは薄れているどころか、若干気持ちを許している節まである。

毎晩決まった時間に受信するメッセージがいつの間にか楽しみになっていた自分も、悔しいけれど知っている。

でも、それを勘づかれるのは嫌なので、精一杯平常心を心掛ける。
負けず嫌いの意地っ張りという性格のせいでどんどん沼にはまっている気はびしびししていた。

「ロールキャベツか」

蓮見さんがコンロの上に置いてある鍋を覗きながら言う。

その顔はもの言いたげで、嫌がらせが効いてる! と、ガッツポーズしたくなる気持ちと、罪悪感とで胸の中がせめぎ合っていた。

出来上がったばかりのロールキャベツのスープから湯気が立つ、あたたかい食卓。
向かいに座る蓮見さんがロールキャベツを口に運ぶのを、こっそりと盗み見る。

昨日の肉じゃがはそこそこ作った経験があったけれど、今日のロールキャベツは、二回目とかそこらだ。つまり自信があまりない。

なので、単純に味が心配で凝視している先で、ロールキャベツをひと口食べた蓮見さんは「うまい」と感想をつぶやいた。

私に聞かせるつもりではなく、独り言のような声量の感想を耳にした途端、疲れきってしぼんでいた気力が一気に膨れ上がる。

エネルギーが足りていなかった体に栄養が回り、見る見るよみがえっていくようだった。

あまりに凝視しすぎたからか、気付いた蓮見さんが「どうした」と聞くので、にやけそうになるのを我慢しながら口を開く。