「ここの空調は合わないか?」
突然話題が変わり思わず立ち止まりそうになった。
空調?と首をかしげてから、さっきの国木田さんとの会話を思い出す。
蓮見さんがいつからあの場にいたのかはわからないけれど、聞いていたのかもしれない。
国木田さんは私との会話が終わらないのに蓮見さんに挨拶をするのは失礼だと思ったから、あのタイミングだったと思えば納得がいった。
「いえ。問題なさそうです。初日は少し違和感がありましたけど、それ以降はなにも感じません。合わないとすぐ症状が出ますが、今のところ大丈夫なので」
「そうか」
端的に返事をした蓮見さんがカードキーで玄関を開ける。
そして、ふたりしてリビングまで入ったところで、なんとも言えない気持ち悪さを感じた。
別にこんなのはどうでもいいと思うものの、一度気付いたらそのままにしておくのはどうしても落ち着かず、仕方なく蓮見さんの方に向き直った。
「あの……おかえりなさい」
完全にタイミングを逃した〝おかえりなさい〟に、蓮見さんがわからなそうに眉間にシワを作る。
馬鹿にした笑いが返ってくる可能性は考えた。
それでも、気持ち悪さが勝ったのだから仕方ない。
でも、蓮見さんはしばらく黙ったあとふっと頬を緩めた。
「ただいま」という声がいつもよりも穏やかに聞こえ、挨拶を始めたのはこちらなのに驚いていたとき、蓮見さんの視線がキッチンに向いたことに気付く。
追って、部屋に漂う夕飯の香りにも気付いた。



