政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい



闇金からの多額の借金の差し押さえとして人質にとられるならまだわかるにしても、表社会でのクリーンな企業提携を理由に嫁ぐものだろうか。

そんなの、武将のいた頃までとは言わずとも、大昔の話だと思っていた。

その疑問は母も同じだったらしく、持っていたティーカップを置いてから難しい顔をする。

「そうなのよね。今時、会社同士の合併や提携のために両家の子孫が結婚なんてなかなか聞かないものなのよ。それなのに提携の話をしていた場でお父さんがちょっと春乃ちゃんの話題を出したら、蓮見さん、すぐに食いついたらしいの」
「食いついたって……」
「少し不思議よね。でも別にいいじゃない? あれだけの企業の御曹司に嫁げるチャンスなんて二度とないもの。今は専務の役職についていらっしゃるそうで、仕事のできる素敵な方だってお父さんが言ってたわ。ほら、春乃ちゃん、ほだされやすいし生活を共にしてたら気持ちだって後からついてくるわよ」

大事な部分を〝少し不思議〟で片付けた母に脱力する。
同時に、娘のほだされやすさを危惧するわけでもなくこれ幸いとばかりに持ち出され、げんなりした。

「春乃ちゃん、他人のいいところを見つけるのが昔から得意じゃない? それは春乃ちゃんの長所だけど、ここだけの話、お父さんと心配してたのよね」
「心配って、なにを?」
「春乃ちゃんがどうしようもない男性に惹かれちゃったらどうしようって。ほら、どんなにダメな男性でも、いいところってひとつやふたつあるものでしょう? 春乃ちゃんはそういうところを律儀に見つけてほだされちゃいそうだから」