〝岩渕さん〟が会釈をし、モデルハウスをあとにしてから白崎がアンケート用紙に目を通す。

私はと言うと、外の水道で傷口を洗ってからモデルハウス内に置いてある救急箱から絆創膏を取り出し処置を済ませていた。

遊びまわるお子さんがケガをすることを想定して部長に掛け合い経費で購入した救急箱だったけれど、まさかこんな役立ち方をするとは思ってもみなかった。

救急箱を元の場所に戻してからリビングに行くと、私に気付いた白崎が眉を寄せた。

「絆創膏で止まる血だったか?」
「うん。ちょっと止まらなそうだったから、ガーゼで巻いてその上から絆創膏貼った。もう大丈夫だよ。それより、アンケートどうだった?」

白崎は私の指先に巻かれた赤く染まりだしている絆創膏を目に留めると眉間にシワを寄せた。
それからアンケート用紙に目をやる。

「今はマンション暮らしか……。旦那とふたり暮らしで、アイランド型キッチン希望。なんか、上品でいかにも新妻って感じだったな。おしとやかでどこまでも尽くしそうだったし、手料理で旦那に嫌がらせしてる誰かさんと大違い。ああいう感じ目指せば蓮見さんも溺愛してくれるんじゃないか?」

「無理して愛されたところでうまくいかないし、そもそも蓮見さんは結婚に愛とか求めてないんだよ。そこが徹底的に合わないから嫌がらせなんてしてるんだし」
「でも、政略結婚と言いつつ、提携話と結婚は別契約なんだろ? じゃあなにも蓮見さんも宮澤を選ばなくてもよかったのにな」

白崎が何気なく言った言葉が気になり「どういう意味?」と首をかしげる。