私がさっきのタイプとは真逆の〝妻〟を演じれば、つまり〝家庭的で献身的で、適度な距離感を保てない、ベタベタ触る感情的な女性〟を演じれば、我慢ならなくなった蓮見さんから婚約破棄の言葉を引き出せるかもしれない。

そんな〝いかにも〟な新婚ごっこは私にもそれなりのダメージがありそうだけど……ここで尻込みしている場合じゃない。

なぁなぁで暮らすわけにも、同居生活が長引いてそのうちにうっかりほだされるわけにもいかないのだ。

十月のさわやかな風がレースのカーテンを揺らす。
それをバックに優雅にソファに座る蓮見さんを見て、ひとりメラメラとやる気を燃やしていた。


一生懸命演じて嫌われて絶対に破談にしてやる。
同居初日、そう固く心に決めたのだった。