「まぁでも、今思うと憧れもあったんだと思うけど、宮澤が持ってるものって洗練されて見えていいなぁって欲しがっちゃってたの」
予想外のカミングアウトをされ驚いていると、御園が「戸村くんとかね」と口の端を上げる。
御園の声で発された名前に、つい最近見た戸村くんの顔ではなく高等部時代の制服を着た彼が浮かんだ。
「あったね。そんなこと」
御園は物だけでなく、戸村くんのこともしきりに〝いいな〟と欲しがっていた。それがどこまで本気だったのかはわからないけれど。
「カーテンの方向いて」と御園に言われるまま、その場で向きを変える。スカートの長い裾は御園が持ち丁寧に床に広げていた。
「宮澤、〝戸村くんは絶対に渡さないから〟って本気で言うからこっちもついムキになって余計に戸村くんにちょっかい出して……こう考えると私の高等部時代、ずっと宮澤のものを欲しがってたなぁ。若気の至りすぎて恥ずかしい」
そう笑う彼女の顔には昔のようなじっとりとした気配はなく、本当に同一人物なのかと不思議になった。
「御園、なんか変わったね。いい意味であっけらかんとした」
ドレスの背中側のファスナーをゆっくりと上げた御園が、呆れたように笑う。
「そりゃ何年も経ってるし、その間に色んな相手にも出会ったもん。変わるよ。宮澤にもいるでしょ。キーパーソン的な存在」
「キーパーソン……」
「その人との出会いがきっかけで前向きになれたとか、思い返してみればいつもターニングポイントにはその人がいたとか。私はそれが専門学校時代に講師としてきていたここの社長なんだけど、出会えてラッキーだったってすごく思う。……できた」



