政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい



可愛らしい部屋よりもシンプルな部屋が好きなので、この部屋の家具や照明、雰囲気は好みなのだけれど……でも、まるでモデルルームだ。
マンションの外観同様にシンプルでおしゃれな部屋には生活感は皆無だった。

今日からここで新婚生活の真似事をするの……?

想像力は豊かな方なのに、おはようからおやすみまで何ひとつ思い描けず、自然とゴクリと喉が鳴った。

「おい。こっち」

蓮見さんが、リビング右奥にあるドアの前で呼ぶ。

『おい。こっち』なんていう命令にほいほい従うのは引っかかったけれど、とりあえず今後生活するためには部屋の案内をしてもらわないことには始まらない。
不服に思いながらも素直に足を向けた。

「配送が間に合わず、家具にまだ不備がある。今日はとりあえずこの部屋のベッドを使え。クローゼットは寝室奥にある。シューズボックスは玄関入って左だ。そのほか、収納については空いているスペースは自由に使ってくれて構わない」

部屋のなかにはダブルサイズくらいのベッドが置いてある。ここが寝室らしい。
私がここで寝るということは、蓮見さんが眠るようにもうひとつ寝室があるのだろうか。

持っていた荷物をベッドの脇に置くと、蓮見さんが「荷物はそれだけか? 言ってあった通り、必要な物があれば用意するが」と聞くので、目を泳がせながら嘘をつく。

「あ、いえ。母から話を聞いたのが急だったので、とりあえず必要なものだけ持ってきて、残りは順次送る予定です。なので、身の回りの物について用意していただくものはありません」