「今後は、よほど信頼を置いている人以外とお店に入るのは控えます」

今回、もしも盛岡さんの思惑通りことが運べば、両社にとって色々とマイナスになった可能性もある。

もう、身代金目的で誘拐されるような年齢ではないし、そんな時代でもないけれど、別の駒として使われる可能性はあるのだから、気を付けないと。

あのカフェで、一瞬感じた激しい動悸を思い出し、胸の前で左手を握りしめる。

怖かった。
信頼していた、毎日顔を合わせていた白崎に裏切られたのかもと思ったら、その一瞬、周りの誰も信じられない衝動に襲われた。

――けれど。

ゆっくりと、隣に視線を向ける。傍にある横顔を見つめているうちに、自然と顔が歪んでいた。
あの時、蓮見さんの顔を見た途端、不安が綺麗に消えた。

あそこに現れたのが他の誰かだったとして、私はあんなに安心できただろうか。
両親や、兄以外で、そんな人他にいるだろうか。




「ん、ぅ……あっ」

蓮見さんが腰を進めると、じわじわとした甘い痺れが背中を這いあがった。
自然と反った体を呼吸が乱れた蓮見さんがきつく抱き締める。

いつも淡々としていて、なかなか感情を表に出さない彼が、こうして熱い吐息をもらしているのが嬉しくて必死にしがみつく。

耳元で聞こえる「春乃……」という掠れた声に、たまらなく涙が溢れる。

そんな私に気付いた蓮見さんが、涙を拭うように目尻にキスを落としていった。
とっぷりとした蜜に沈み込んだみたいにただただ甘く染められた行為は、思考回路を遮断させ私を感情だけの生き物にする。