「いえ。ご無事でなによりです」

目を細めた国木田さんにハッとして、口を開く。

「お気遣いいただきありがとうございました。よろしければお昼にでも召し上がってください」

さきほど国木田さんへのお礼としてパン屋で購入したサンドイッチやスコーンの入った紙袋をカウンターの上に差し出す。

国木田さんは遠慮したけれど「心配してくださったお気持ちが嬉しかったので、なにかお礼がしたかったんです。私の自己満足のためにお願いします」と強く言うと受け取ってくれた。



部屋に戻り、ふたりで昼食を済ませたあと、ソファに並んで座る。
ローテーブルには蓮見さんが豆から挽いてくれたコーヒーが置かれていた。

私が毎日これ見よがしにキッチンに立つからか、最近は蓮見さんも少し料理するようになった。

並んで夕食を作るなんてイベントもたまにあり、なんとなく漂う甘酸っぱさに胸がむずがゆかったりしていたのだけれど、そのうちに色々なキッチン雑貨が宅配で届くようになったのは驚いた。

蓮見さんはコーヒー関連に特に興味を引かれたようで、好みのミルなどを揃え、最近はよくこうして食後にコーヒーを挽いている。

蓮見さんがコーヒー豆を挽き、コーヒーを入れる時間は、聞こえてくる音も香りもとても落ち着くので私にとってもいつの間にかお気に入りの時間となった。

なんてことのない白いカップとソーサーも蓮見さんがコーヒー専用に揃えたものなのだけれど、凹凸で記されているブランドは誰もがよく知る名前なので、絶対に割らないようにしないとと気を付けている。

そんなカップで蓮見さんの入れてくれたコーヒーを飲むという贅沢なひと時を過ごしながら、さきほどの話を持ち出すことにした。