「会社の未来を守るための行動ですので、単純にいい悪いの話ではないのを承知で言わせていただきます。こちらの信頼関係を揺らして崩すようなやり方は、私は好きではありませんし、そんなやり方を好む社長は社員としては尊敬できません。それと、うちの自慢の家に興味を持ってくださったのが嘘で悲しいです」
顔をしかめて微笑んだ私に、盛岡さんはひとつ息をついたあと「申し訳ない」と力ない笑みで謝った。
近くのパーキングに停めてあった蓮見さんの車で、マンションに帰る。
本来ならば午後は家具を見に行く予定だったのだけれど、なんだか気がそがれてしまい、それは蓮見さんも同様だったので、パン屋やケーキ屋で適当に買い込んで帰宅することにした。
マンションのエントランスを抜けると、こちらに気付いた国木田さんが「おかえりなさいませ」と笑顔を向ける。
その顔がどこかホッとしているように見えるのは気のせいではないのだろう。
盛岡さんの会社の車が私をつけているんじゃないかと気付いたのは国木田さんだという話だった。
だから、さっき出かけるときも外まで出てきてくれたのだと思うと納得がいった。
国木田さんは、葉の散らかり具合ではなく、例の車がいないかを確認していたんだ。
お礼を言いたくてカウンターに近づいたのだけれど、隣に並んだ蓮見さんが先に国木田さんに話しかけるものだから驚く。
「先日の件ですが、無事解決しましたのでご報告を。ありがとうございました」
そして、蓮見さんの口から出た謝意にもっと驚く。
今回の国木田さんの気遣いを、蓮見さんはそれもコンシェルジュの仕事の一環として当然くらいに捉えそうだと思っていただけに、お礼の言葉が出てきたのは意外だった。



