「――失礼。彼女になにか話があるようなら、代わりに伺いますが」
私と盛岡さんの間にある張り詰めた空気を壊すようにテーブルに手をついた人物を見上げた途端、それまで私を襲っていた不安があっけなく姿を消す。
突然の蓮見さんの登場に、盛岡さんは目を見開き、それから焦ったような笑顔になった。
「ああ、いや……」
私相手には散々嫌な態度をとっていたくせに。
盛岡さんの態度の変わりように腹が立ち、蓮見さんを見上げた。
「〝盛岡ハウジング〟代表の盛岡さんだそうです。蓮見さんに相手にされないから、私にお願いしにきたみたいです」
「ああ、たしか何度か社にお電話いただいていますね。すべてお断りしているはずですが」
蓮見さんの言葉にバツの悪そうな顔になった盛岡さんをじろっと見る。
「話の内容が少し脅迫じみて聞こえもしたのですが……私の気のせいですよね?」
盛岡さんは一瞬顔をしかめてから苦笑いになった。
「もちろんだ。あくまでも雑談の延長線上のつもりだったよ。誤解があったなら謝ろう」
よく言うな、とは思いながらも何も言わずにいる私を、盛岡さんが探るように見た。
「君が呼んだのか」
「呼んではいませんが、伝えはしました。昔からホウレンソウを徹底されているので」
盛岡さんがコーヒーを注文しに行っている間に連絡済みだ。
蓮見さんはそれを見て、ここに直行してくれたのだろう。
「一応、父が社長なんてしていますので、その辺は小さい頃から色々言われているんです。家族以外の相手との食事は必ず窓際の席を選び周りからの視界を確保するようにですとか、外で誰かの手に一度でも触れたものは口にしないようにですとか……なのですみません。せっかく買ってきていただきましたが、こちらはいただけません」
視線でコーヒーを示しながら謝る。



