「申し訳ありません。そういった情報はまだ社員には下りてきていないんです」
暗に、私に聞かれても困ると伝える。
盛岡さんはテーブルに頬杖をついて私を見た。
行儀の悪さに無意識にしかめそうになった顔を、必死でにこやかに保つ。
「そんなはずはないよ。いや、社員に情報が下りていないのは本当かもしれない。でも、君に限ってはその他大勢の社員と同じタイミングでそれを知るはずがない」
最後に「宮澤春乃さん」と名前を言われ、驚く。
私はまだ自己紹介していない。
「どなたでしょうか」
柳原さんという前例があるので〝盛岡〟という名前が事実かどうかもわからないと判断して聞いたけれど、盛岡さんは私のその考えを否定した。
「〝盛岡ハウジング〟で代表を務めてるんだ。もしかしたら、盛岡って名乗っただけでピントくるかとも思ったけど、僕の会社もまだまだだな」
〝盛岡ハウジング〟
たしかに聞いたことはあるハウスメーカーだ。
大手よりもリーズナブルな価格設定で、自由設計を売りにしている。都内の住宅展示場にも何ヵ所か出展していたはずだ。
少し前に悪いニュースがあった気がする。
頭の中で〝盛岡ハウジング〟について情報を整理しながら、盛岡さんが私に接触してきた理由を考える。
さっきの口ぶりから、私が社長の娘だと気付いているみたいだし、下手なことは言わない方がよさそうだ。



