「君、〝レイドバッグホームズ〟で受付をしている子だよね」
「え……」
「実は何度か見に行かせてもらっていて、そのときに君の顔は見て知っていたんだ。正直に言うと、他のメーカーとずっと迷っていたんだけど、おたくに決めようと思ってね。覚悟して今行ってきたところなんだけど、水曜日は休みなんだね」

見覚えは……ない、と思うのだけれど。
そう言われてしまうと、見たことがあるような気分にもなる。

結構人の顔は忘れない方だけれど、自信があるかと問われれば力強くはうなずけない。
でも、これだけ知っているなら事実なんだろう。
男性と向き合うように立ち、笑顔を作った。

「そうなんですね。ありがとうございます。毎週水曜日と第一第三木曜日はお休みとなっておりますので、ぜひ他の曜日でご都合のつくときにでもお越しください。お手間をおかけしてしまい申し訳ありませんでした」
「いや、調べずに行った僕が悪いんだよ。気が急ってしまってね。初めてのマイホームだから」
「お気持ちわかります」

気さくな男性の態度に、私も自然と笑みがこぼれる。

「そうだ。いくつか確認しておきたいことがあるんだ。もし時間があれば、そのへんでお茶でもしながら教えてもらえないかな」

思わぬ誘いに一瞬ためらう。
でも、男性が視線で示したカフェは大通りに面していて、大きな窓ガラスからは店内がよく見渡せる。

まだ太陽は昇りきってもいないので、あたりは当然明るく人通りも多い。
相手は、私の父と同じくらいの年齢で、〝レイドバッグホームズ〟のモデルハウスに私の顔を覚えるくらい通っているお客様だ。

色々合わせて考えてみても、そこまで警戒する必要はないと判断し、「私に答えられる範囲でなら」と誘いを受けた。