《今から買い物に出かけてきます。お昼前には戻ります》

水曜日。蓮見さんにメッセージを送ってから部屋を出る。

今日、蓮見さんは仕事だけれど、午後には帰ってきてずっと先延ばしになっていた家具を見に行く予定でいる。もし早く終わるようならランチも一緒に外に出ることになっているので、そこは蓮見さんからの連絡待ちとなる。

柳原さんとの一件以降、ルールとなった外出報告には、〝どこに誰と何時まで〟を書くのが暗黙の了解だ。

実家にいた頃もそのへんは徹底されていたので手間だとは思わないし、蓮見さんの立場を考えれば当然かとも思うけれど、課されたそれは社会人のホウレンソウというよりは親が小学生に言って聞かせるようなものだという印象が拭えない。

柳原さんとの件を蓮見さんは自分に責任があると捉えているからこそのルールなのはわかるけれど、それにしたって私もそこまで子どもではないと苦笑いがもれる。

彼と今まで付き合ってきた元恋人たちは熱量の差に耐え切れず別れを切り出したという話だったけれど、あれは本当なのだろうか。

そんなことを考えながらエントランス前に差し掛かったとき、コンシェルジュの国木田さんが私の顔を見て動きを止めた。

なにか言いたそうな顔に思えて首をかしげると、国木田さんはカウンターの外に出てきて笑顔を向ける。

「お出かけですか?」
「はい。日用品の買い出しなので、一時間もせずに帰宅予定です」

蓮見さんにメッセージを送ったあとだからか、詳細を話しすぎてしまい恥ずかしくなって笑みでごまかす。

ちなみに国木田さんは、咳が出るとマスクをしていた日以降は体調不良もなく元気そうだ。

あの翌日にした会話の中で国木田さんが言った『いただいたのど飴が効いたのでしょうね』というのはさすがに嘘だとわかったけれど、『よかったです』と笑顔を返した。