「あ、もしかして、生理的に無理ですか? 私を気に入らないようでしたら、遠慮なしにそう言ってくださって大丈夫です。結婚の話は破棄で構いません。結婚と会社の提携は別の契約ですし、提携だけ予定通り進めていただければこちらとしても全くもって問題はない……」
私が蓮見さんの顔を知らなかったように、蓮見さんも私の顔を知らなかった可能性はある。
政略結婚を了承するような人だ。
わざわざ結婚相手の写真なんて確認しなかったのだろう。
だから、気に入らなかったのであればここで婚約破棄にこぎつけられるかもしれないと思い話し出したけれど、蓮見さんは「いや」と私の声を遮った。
「そうは言っていない。入れ」
「遠慮しているなら全然……」
「早く入れ」
「……はい。おじゃまします」
最短での婚約破棄は叶わず、肩を落としながら玄関ドアを閉める。
うちよりも広い玄関は濃いグレーのタイルで、左側にはタイルと同じ色の背の高いシューズボックスがあった。大理石の質感を演出している、デザイン性の高いものだ。
一応、仕事がハウスメーカー勤務なので、見た目のよさだけでなく容量だとか使いやすさが気になったけれど、どちらも二重丸がつけられると思う。姿見もついているので出かけに便利だ。
通路を歩いているときから感じていたけれど、このマンションは天井が一般的な住宅よりも高い造りになっていて開放感がある。



