「私の配慮が足りなかったばかりに大事な春乃さんに怪我をさせてしまい、申し訳ない限りです」

蓮見さんが頭を下げようとするので止めようとしたけれど、父が「いやいや」と苦笑する方が先だった。

「この子は昔から無茶をする子だったから気にしないでいい。今回の怪我もどうせ勢いよく突っ込んだ結果だろう。蓮見くんが気にする必要はないよ」

その通りではあるものの、父の言いぐさに少しムッとする。
頬の怪我は、病院を受診してから二日経った今、少し落ち着いている。

口の中の傷も、頬の痣も、両方の痛みも昨日のピークを無事に越えた感覚があるので、これからは完治に向かうと思う。

顔に湿布を貼ったままの接客はどうかと思い、今は白崎や他の社員にモデルハウス受付は代わってもらっているので、早く治るのを祈るばかりだ。

なので昨日から私は裏方の仕事をしていたのだけれど、急に呼び出されたと思ったらこれだった……というわけだ。

「ただ、根性があって努力家だ。そこは自慢できるよ。学生時代も成績は常に上位だったし、なにに対しても真面目に取り組んでいた。まぁ、この子の場合は、〝お嬢様だからってなにもできないと思われたくない〟という反骨精神が源だったから、純粋に何かが好きで始めたものも続けたものもなかったように思うが」

苦笑いを浮かべた父が続ける。

「まぁ、私立のエスカレーター式の学校に入れてしまったからな。それもよくなかったのかもしれない。余計に家柄で見る傾向が強かったし、春乃は息苦しそうだった。今思えば悪かったな」

私を見て謝る父に、眉を寄せた。