「はい」
しっかりと答えてから、ついさっきまで抱いていた疑問を思い出した。
「あの、さっきの話は誰かから聞いたんですか? 父が話したとか……」
それにしては実際に見ていたような言いぐさだったとは思いながらも聞こうとして、一気に距離を詰めた蓮見さんに止められる。
鼻先がぶつかり無意識に後ろにのけぞりそうになったところを、腰に回った蓮見さんの腕に止められた。
間近に端正な顔があり、じっと見つめてくる瞳に心臓が速足になる。
「もう黙ってろ。今日はゆっくり並んで話をしている気分じゃない。理由はわかるな?」
「……はい」
散々面倒をかけた自覚はあった。
柳原さんとの件は、やり方次第でもっとうまく治められた。そうしたら、転ぶこともなかったし、病院にも行かずに済んだ。
蓮見さんは、日が沈まないうちに仕事に戻れたのだ。
なので……という理由でもあるし、〝黙れ〟という言葉に素直に従ったのは、場を包む空気が変わったせいでもあった。
お風呂上りのような、今日行った高級フレンチのような、しっとりとした雰囲気にゆっくりと目を伏せる。
私の顎を持ち上げて固定した蓮見さんがそのまま距離を埋めたのが見え、唇の感触にも視覚情報にも鼓動が跳ねた。
「いい子だ」
「……んっ」
きちんと大人しくなった私に、蓮見さんがふっと笑みを浮かべる。
もう一度重なった唇が私のそれをついばむ。
唇の柔らかさを確かめるような、戯れているようなキスが恥ずかしくて身じろぐけれど、腰に回った腕に力が込められただけだった。



