政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい



わずかな緊張を感じ体が強張るのは仕方ない。
だって、蓮見さんの素性をよく知らないのだから。

私が持っている情報は〝蓮見大祐〟という名前。三十歳という年齢。それに、〝ロータステクノロジー〟の御曹司という立場のみ。

それらはペットボトルでいえば外側のフィルム部分だ。しかもそのペットボトルは黒塗りされていて中身がどんな色をしているのか、炭酸なのかアルコールなのかもわからない。
そんな状態で〝試してみろ〟と言われても、普通に考えて怖いに決まっている。

とんでもない劇薬の可能性だってあるのだ。
劇薬……もちろん、政略結婚なんて壊すつもりで来たけれど、その前に蓮見さんがとんだ変態だったら私の人生詰んだかもしれない。

立場があるからといって、まっとうな人とは限らない。

迫りくる身の危険を感じ背中をぞわりとしたものが這い上がったとき、玄関のロックが解除される音がした。

ゆっくりと開けられたドアに、嫌なドキドキを感じながらも視線を上げ……目が合った人物に息を呑んだ。

涼しそうな二重の目に、知的さを感じさせる眉。鼻筋がスッと通っていて、その下には形のいい唇。無駄のない輪郭。首筋から首元にかけてのラインがとても綺麗で色っぽい。
向かって左眉の上で分けられた黒髪は自然に流されていて、長さは耳に少しかかる程度。

顔立ちが整っている男性に対して、イケメンだとかカッコいいだとか色々と表現はあるけれど、〝眉目秀麗〟という単語がポンと浮かんだ。

クールな雰囲気には〝美形〟や〝綺麗〟という言葉がよく似合う。