体調を崩した翌日、木曜日。
一日寝て過ごしたおかげで体はだいぶ回復していた。

咳とめまいは一度出てしまうとそんなにすぐに治らないため残っているけれど、症状はそれくらいだ。

どうせ平日だしモデルハウスへの来客はほぼない。マスク出勤すれば事務仕事くらいはこなせる。

なので、当然出勤するつもりで早起きしたのだけれど、朝食づくりは蓮見さんによって止められた。

普段から料理はしないと話していた蓮見さんだったけれど、私の代わりにキッチンに立った彼は手際よく朝食を作り上げた。
買い出しは済ませていたにしても、冷蔵庫の中身を見てパパッと適当なものを作れてしまうなんて思ってもみなかったので、驚いたというよりはショックだった。

蓮見さんは料理ができないでほしかった。

理由を聞かれたら、なんとなくとしか答えられないのだけれど……私の作った料理を食べて、『うまいな』とこぼす様子を見るのは結構好きだったから、というのが一番の理由かもしれない。

昨日言っていたサンドイッチだって、蓮見さんは本当は自分でもおいしく作れるんじゃないかな、と思い少し残念に思っていると、朝食を食べ終えた蓮見さんに今後の家事について報告される。

「今まで通りにしていたらいずれまた体調を崩す。仕事を続けるのなら、家事を他の人間に任せるのが妥当だ。今日からハウスキーパーに来てもらうよう手配した。午後には掃除に来る予定だが、必要なら食事も頼めばいい」

淡々と告げられ、思わず眉を寄せた。

「そういうわけには……」
「じゃあ、仕事を辞めるか? どちらもやろうとして無理をしたのは明らかだ。張りきっているように見えたから余計な口出しはしなかったが今回の件では俺にも責任はある。他に解決策があるなら聞くが」

私を見て答えを待つ蓮見さんに、ぐっと黙ってから目を伏せた。