「普段威勢がいいぶん、体が弱ると気持ちまで弱くなる。ひとりにされると寂しがるくせに、こんなときまで強がるな。俺の心配も無用だ」

なにも言い返せなかったのは、事実だからだ。

昔からそうだった。
風邪を引いたり喘息がひどくて寝込んでいるとき、ひとりにされると不安になりめそめそ泣いていた。

どうしてか寝入る瞬間が怖くて仕方なくて、意識が落ちかけてはビクッと体が震えて目が覚める。それを何度も繰り返した。

それを知っていたから兄は私の傍にいてくれた。

けれど、どうしてそれを蓮見さんが知っているのかわからず、父から聞いたのだろうか……と考えていると、彼の視線がこちらに向けられる。

「ずっとここにいてやる。だから、安心して休め」

その表情は穏やかだった。
こんな状況なのに、せっかくの休みを潰されているのにちっとも怒っても不満に感じてもいないのが伝わってきて、じわじわと胸の奥から暖かいものが広がっていく。

さっき散々泣いたせいで涙腺はおかしくなっている。
だから、また涙にならないうちに目を閉じると、すぐに襲ってきた眠気に誘われた。

もう大人なので寝るのが怖いなんてことはないけれど、繋がれている手のおかげで安心して眠りにつけたのはたしかだった。

蓮見さんの体温が心地いい。

眠りにつく瞬間、「いい子だ」と、とても柔らかい声が聞こえ、繋いでいる手に力がこもった。

そういうことはやめてほしい。
私と蓮見さんの間には恋愛感情なんてないし、この先に待つのは婚約解消なのに、そんな優しい声で、甘い体温をわけられたらなにかが始まってしまう。

そのまま入り込んだ夢の中に出てきた蓮見さんがやけに愛しそうに私を呼ぶので、どんな顔をすればいいのかわからず困り果てる。

恥ずかしくなりながらも笑顔を浮かべて呼び返した私に、夢の中の蓮見さんは目を細め、優しく唇を重ねたのだった。