だから、「あの、私は横になっていれば治りますし、もう大丈夫ですから」と、退室を促したのだけれど、蓮見さんはそこを動こうとはしなかった。

「そうか」とだけ返される。

さっき、私が泣いて弱音を吐いているときも散々聞いた『そうか』。とても短く、感情なんて乗っていないのに優しく感じるのは、私が弱っているからだろうか。

蓮見さんの低く聞こえのいい声で言われると、私全部を受け入れられている気持ちになって甘えたくなるのも、同じ理由からか。

「それ、仕事ですよね? だったらリビングとかでした方がいいかと」
「問題ない」
「でも、この症状がもしも疲れとかではなく風邪の引き始めだった場合、同じ空間にいるのは危険だと思います。蓮見さん、風邪を引いても仕事忙しそうですし休めないんじゃ……」
「ここは俺の家だ。どこにいようと俺の自由だろ」

しつこく言ったからか、怪訝な顔を向けられる。
かと思えば、蓮見さんは眉間のシワを消しやれやれと言った具合にため息をついた。

ベッドの上に放り出していた手を上から握られ驚くも、蓮見さんはもう視線をタブレットに戻していてこちらを見てはいなかった。

ひやりとした彼の体温が伝わる。

「蓮見さ――」
「いいから寝てろ」

私より冷たい手に軽く力を込めた蓮見さんは、液晶画面を見たままで続けた。