蓮見さんは、私を変わらず〝おまえ〟と呼ぶことも多い。
でも、名前で呼ぼうと意識してくれているのは私にも伝わってくる。
だからだろうか。
〝おまえ〟と呼ばれても、同居初日の時のような、嫌な感じがしないのは。
「……また、作ります」
嫌がらせのために、仕方なくだ。
そう、誰にだかわからない言い訳を心のなかで繰り返した。
食事を終えて、片づけを済ませた蓮見さんはまたベッドの端に座った。もうすっかり定位置となっている状況に戸惑う。
体調を崩したからといってここまで付きっ切りで看病されるのは、小さい頃以来だ。
兄がよく私のベッドの端に、今の蓮見さんのように座ってくれていたことを思い出す。でも、あの頃とはもう年齢が違うし、蓮見さんも兄ではないので、こんなつきっきりはおかしい。
これは……というか、私の涙を拭いたり私の口に食事を運んだりしていたあたりから、蓮見さんが当初に述べた理想とかけ離れすぎている。
こんなのは想い合っている夫婦がすることだ。
もしかしたら、喘息の咳を初めて聞いたから発作を心配しているのだろうか。そう思いながら、蓮見さんの横顔を眺める。
片手にはタブレットを持って操作しているので仕事をしているのかもしれない。どちらにしても、背もたれのあるソファで作業した方が楽なのは明らかだった。