「水、飲んでおけ」
蓮見さんがフタの開いたペットボトルを渡してくる。
ゆっくりと上半身を起こして言われた通りに水を飲む。
私からペットボトルをとった蓮見さんは、フタをしめたあと私と目を合わせた。
「おまえのそれは、馬鹿なわけでも子どもなわけでもない。ただ……世間知らずで、人間が綺麗だといいと願っているだけだ」
蓮見さんの瞳がまっすぐに私を見る。
真摯な眼差しは、きっといつも通りの感情の浮かばない涼しいものなのに、今ばかりは励まされる。嘘偽りがないとわかるから。
蓮見さんが手を伸ばし、私の頬に触れる。
「おまえはただ、優しいだけだ」
静かに、しっかりと告げられた言葉に目の奥が熱を持つ。
体が弱っているときに優しくするのはやめてほしい。泣きたくなんてないのに、うっかり涙があふれて止まらなくなるから。
「全然、優しくなんかないです。私は――」
蓮見さんのせいで、そこからは、ひっくと喉をしゃくりあげながらの弱音タイムとなった。
〝岩渕さん〟という女性客に、強引な接客をして断りにくい雰囲気を作ってしまったこと。家族のイメージの強いモデルハウスに女性ひとりで来るのはそれだけでも勇気がいっただろうに、私がさらに追い詰めてしまったこと。
空調が合わないだけでおかしくなる喉だとか、風邪を引くとだらだらとしつこく続く空咳だとか、デリケートで弱い体を、これが自分なのだから仕方ないと思いながらもたまにものすごく嫌になること。
〝お嬢様だから〟という目で見られるのが嫌なのに、結局自分は世間知らずでうまく立ち回れないこと。それが、情けなくて仕方ないこと。
ずっと、もやもやしたものが心の底にたまりっぱなしでどんどん気持ちがよどんでいく気がすること。



