お焼香を済ませ会場を出る際、振り向くと部長たちは遺族の方に頭を下げているところだった。
その顔はさも鹿島さんが亡くなったことを悲しんでいる、といったものだったのに、ふたりは会場から通路に出るのを待たずにまた口を開いた。
『アイドル推すなんて学生の頃以来だったんだよ。よりによってその子が脱退とか俺の気にも――』
まるで、お焼香をあげた数十秒なんてなかったみたいに再開された雑談。
沸騰しそうな苛立ちに逃げるように会場をあとにした。
あのとき飲み込んだやるせなさがずっと心の中にあって、それが転がるたびにザラザラと嫌な音を立てている。
「鹿島さんと部長は友達じゃないってわかってるんです。ただの仕事上の相手だったとも。だけど……だからって、お通夜の場で、鹿島さんの写真の前であんな態度は許せなくて。でも、部長たち以外にもあんな場なのに歯を見せて雑談している人たちは普通にいて……お焼香のときだけ真面目な顔して会場を出たらすぐに笑ってて、それが悲しかった」
せめてあの場だけでも鹿島さんを偲ぶべきだと思った。
けれどそれを私が注意すべきではないこともわかっているし、マナーとはいえ個々の考え方の違いでしかないこともわかっている。
私が自分の考えるマナーやルールを守っているなら、それでいい。周りに〝夢見がち〟だと言われる私がおかしいのかもしれないし、と飲み込んだ。悲しみを強要するのは間違っているとも思う。
でも、飲み込んだところで割り切れない思いもたしかにあるのだ。
仰向けに寝たまま、「だから悔しい」とつぶやき、息をつく。
話しすぎたからか、空咳が二度ほど出てその衝撃で喉と胸の間近辺がわずかに痛んだ。



