「食事は適当にデリバリーを頼んだから、あと三十分もすれば到着する。昨日の夜もあまり食べなかっただろ。なにか口にした方がいい」
胃腸に問題はないのだけれど、眩暈があるためあまりなにかを食べたいという気になれない。
でも、栄養をとった方が回復が早いのはたしかなので、素直にうなずく。
それから目をつぶりひとつ息をつくと、まだベッドの端に腰掛けたままの蓮見さんが「なにかあったのか」と静かに聞いた。
「昨日、寝込む前から……いや、もっと言えば金曜あたりから様子がおかしかっただろ」
一緒に暮らしていれば、相手のちょっとした仕草でなにかに気付くことはある。でも、まさか蓮見さんに気付かれているとは思わなかっただけに驚く。
政略結婚しようとしている人が、そんなところまで気にかけてくれているなんて思ってもみなかった。
視線を向けても、窓の方を見ている蓮見さんとは目が合わなかった。
じっと見られていても落ち着かないので、もしかしたら気を遣ってくれたのかもしれない。
「今日の予定は延期だ。デリバリーも三十分後まで届かない。暇つぶしに話くらいは聞いてやる」
その言いぐさはどうかとは思ったけれど、不思議と腹は立たなかった。
柔らかい日差しが蓮見さんを包んでいて、彼の顔が穏やかに見えるようなエフェクト効果をもたらせたからかもしれない。
私と蓮見さんは、あった出来事を報告するような間柄ではない。
それでも、少し弱っているせいか甘えたいという気持ちが前面に出てしまった。



