恋の終わりは 【恋に焦がれて鳴く蝉よりも・番外編】

 当時の気持ちを思い出しながらそう語っ
たレイに、紫月はほんのりと頬を染める。

 レイの言う通り、自分は創立記念パー
ティーの時と同じ、ムーヴピンクのドレ
スを着ていた。

 袖部分にシックなラメレースを使用した、
大人可愛いワンピースだ。けれどもし、
そのドレスを着ていなくても、彼は自分に
気付いてくれたのだろうと、密かに思う。

 たとえ紫月が覚えていなかったとしても、
彼はいつも自分を見つけ、そうして想い続
けてくれた。そう思えば、眩暈がしそうな
ほど、満たされた心地になる。

 「どうしても許せなかったのよ。誰も
見ていなければ悪いことをしても構わない
っていう狡い考え方も、こんな美しい庭を
平気で汚せる神経も、許せなかったの。
でも、後で友人には怒られたわ。『相手が
逆上したら、どうするつもりだったのよ!』
って」

 「確かに、あの時の友人の狼狽えぶり
は見ていて気の毒になるほどだったからね。
まあ、その男が手を上げるようなら、僕は
黙って見ていなかったけど。ホテルにとっ
てゲストは神様ではあるけど、人として
最低限のモラルは持ち合わせていて欲しい
と思ってる。じゃないと、他のゲストに
不快な思いをさせてしまうからね。だから、
彼にはブラックリストに入ってもらったよ。
ここだけの話だけど」

 そう言ったレイを覗くようにして振り
返ると、彼は人差し指を唇にあて、可笑し
そうに目を細めていた。紫月はその顔を
見た瞬間、温かな想いが込み上げてきて、
知らず、緩やかな笑みを浮かべる。




-----幸せだった。信じられないほどに。



 彼に嫌われてしまったかも知れないと、
怯えていたあの数時間は、あんなに
心細かったというのに。

 そんなことを思っていた紫月の頬に、
レイが頬を寄せる。そうして、そのまま
背後から捕まえるように紫月を抱き締め
ると、静かに、穏やかに、言った。

 「……どうして、愛さずにいられるだろ
う。誰よりも気高く、可憐で、真っ直ぐに
前を向いて生きようとする君を。僕は、彼
が君の魅力に気付かずにいてくれたことを、
何度も神様に感謝したんだ。だからあの夜、
自分から恋を手放した君を見た時は本当に
心が震えた。今度こそ必ず、君を捕まえよ
うと思った。いつもいつも、僕は君を遠く
から見るばかりで、この手を掴むことが
出来なかったから」

 その言葉に、つんと鼻先が痛んでしまっ
た紫月の左手を、滑るようにしてレイが
握る。

 そして硬く冷たい感触が、薬指を通り
過ぎた。その感触にどきりとして目をや
れば、零れんばかりの光を放ったダイヤが、
永遠の輝きをそこに留めている。

 はっとしてレイを見ると、彼は腕を離し、
紫月を自分に向かせた。