恋の終わりは 【恋に焦がれて鳴く蝉よりも・番外編】

 「良かった。買ったまま使えなかったら
どうしようかと思ってたんだ」

 そう言いながら、さっそく箱からゲーム
を取り出し、大きなダイニングテーブルに
載せる。二つ折りになっているボードを
開けば、ルーレットを囲むようにカラフル
な道がゴールまでくねくねと続いている。

 そしてその道には、人生に起こりうる、
さまざまなハプニングが記されていていた。

 ぱっと見ただけでも、面白そうだ。
 紫月はボードを覗き込むと、レイに
訊いた。

 「ねぇ、やり方はわかるの?ルールが
あるでしょう」

 「もちろん。待って、いま説明書を読ん
でみるよ」

 得意げに頷いて説明書を広げたレイの
傍らから、紫月もそれを覗く。
 二人で頭を突き合わせ、一通りルールを
読み終えると、「じゃあ私からルーレット
を回すわね」と、紫月は子供のように
はしゃいで言った。




-----それから二時間後。



 「酷いわ!ねぇ、どうして私ばかり借金
が増えるのよ!?」

 二度目のゲームを終えた紫月は、目の前
に並ぶ沢山の“約束手形”を見つめ、がっく
りと肩を落とした。

 くすくす、と可笑しそうに笑いながら、
レイは使い終わった紙幣やコマを片付けて
いる。ゲームにコツなどないはずなのに、
どういう訳かレイは二回とも大富豪となり、
紫月は借金まみれだった。たかがゲームと
は言え、自分の運の悪さが恐ろしい。

 「別に僕はねらってルーレットを回して
いたわけじゃないんだけどね。返ってそれ
が良かったのかな?」

 面白くなさそうに、片付けを手伝い始め
た紫月に肩を竦めて見せる。ねらっていない
割に、“油田を発見する”だの、“株が急上昇”
するだの、いいコマばかり止まる彼は、
やはり天性のお金持ちなのだろうか?

 そんなつまらないことを考えていた紫月
に、ふと、レイは真面目な顔で言った。

 「でもさ、このゲームやっていて思った
んだけど、『突風で全財産が飛ばされる』
とか、『家が火事に合う』とか結構なアク
シデントが用意されてるのに、夫婦が『離婚
する』っていうコマがないなと思ったんだ。
ある地点で結婚すると、子供がいる、いない
の違いはあっても、ゴールまで添い遂げてる。
もちろん、これは単なるゲームだけど現実の
人生にもアクシデントは付き物だ。いつ、
パートナーが病に倒れるかわからないし、
ある日突然、借金地獄に陥るかもわからない。
それでも、山あり谷ありの人生を共に生きて
いく。それが夫婦のあり方なんだと、この
ゲームは暗に伝えてるような気がしない?」

 至極真剣な顔をしてそう語りながら、レイ
が紫月の手を握る。その手は、やんわりと
優しい熱を伝えながら、自分たちもそう在り
たいのだと、紫月に伝えていた。

 だから、たかがゲームでそこまで深読みす
るなんて……と、笑うことなどできなかった。