「そう、それはいいアイディアね。今は
飽食の時代だから、普通に生活していると
食べ物のありがたみには中々気付けないわ。
だから、あなたは今日、それを教えるため
に、私をここへ連れて来たのね」
「それもあるけど、純粋に、紫月に新鮮な
野菜を食べさせてあげたいと思ったのもある
し、世界各国にあるうちの農場を巡りながら、
僕の仕事を手伝って欲しいという思いもあっ
たから、ここへ連れて来たんだ」
「僕の仕事、って……まさかホテル経営を
私が手伝うってこと?」
「そう。紫月は語学が堪能だからね。英語
の他にフランス語も話せるだろう?」
「ちょっと待って、フランス語は話せるっ
てほどじゃ……」
いつ、誰からそんな話を聞いたのだろう?
と首を捻り、すぐに父の顔が思い浮かぶ。
きっと、縁談の話が来た時に、父がペラペ
ラと喋ったのだろう。レイから縁談が来た、
と自分に告げた時の父は上機嫌だった。
「もちろん、今の話には『君が僕を好きに
なってくれたら』、ってゆう前置きがある。
だから僕は、そろそろ本気で紫月を口説か
なきゃならないんだ。次のデートが最後の
チャンスになるわけだしね」
頬杖をつきながら、レイが艶やかな目で
紫月の顔を覗く。紫月は“最後”というその
ひと言にどきりとしながら、そうして、
一気に縮まった彼との距離に身体を硬く
しながら、ごくりと喉を鳴らした。
-----しん、と沈黙が流れる。
縁側のガラス戸から覗く空は、ゆっくり
と夕暮れを連れてきている。その空の彼方
から、微かに慈鳥の鳴く声が聞こえた。
壁を背に、レイと肩を並べて座っていた
紫月は、何かを口にしようとし、薄く唇
を開いた。彼と過ごした時間はまだ二日。
けれど、その短い時間の中で自分が彼
に抱いた感情は、確実に“恋”と呼べるも
のに変わりつつある。おそらく、最後の
デートを終える頃には、自分は答えを
見つけているだろう。
だったらもう、この気持ちを口にして
もいいのではないか?紫月は一度唇を
閉じ、そうしてまた開いた。
「レイ、私……」
-----たぶん、あなたが好きだわ。
そう口にしようとした紫月の唇は、
それを告げることが出来ないまま、突然
レイによって塞がれてしまった。
「…っむぐ!?」
けれど唐突に、自分の口を塞いだのは
彼の“唇”ではなく、バーニャカウダソース
をたっぷりディップした人参で……。
紫月はそれをむぐむぐと咀嚼しながら、
思いきり顔を顰める。くすくす、と、笑い
ながらレイが紫月の唇の端についたソース
を親指で拭う。そうして、それをペロリと
舐めると、紫月の頬をするりと撫でた。
飽食の時代だから、普通に生活していると
食べ物のありがたみには中々気付けないわ。
だから、あなたは今日、それを教えるため
に、私をここへ連れて来たのね」
「それもあるけど、純粋に、紫月に新鮮な
野菜を食べさせてあげたいと思ったのもある
し、世界各国にあるうちの農場を巡りながら、
僕の仕事を手伝って欲しいという思いもあっ
たから、ここへ連れて来たんだ」
「僕の仕事、って……まさかホテル経営を
私が手伝うってこと?」
「そう。紫月は語学が堪能だからね。英語
の他にフランス語も話せるだろう?」
「ちょっと待って、フランス語は話せるっ
てほどじゃ……」
いつ、誰からそんな話を聞いたのだろう?
と首を捻り、すぐに父の顔が思い浮かぶ。
きっと、縁談の話が来た時に、父がペラペ
ラと喋ったのだろう。レイから縁談が来た、
と自分に告げた時の父は上機嫌だった。
「もちろん、今の話には『君が僕を好きに
なってくれたら』、ってゆう前置きがある。
だから僕は、そろそろ本気で紫月を口説か
なきゃならないんだ。次のデートが最後の
チャンスになるわけだしね」
頬杖をつきながら、レイが艶やかな目で
紫月の顔を覗く。紫月は“最後”というその
ひと言にどきりとしながら、そうして、
一気に縮まった彼との距離に身体を硬く
しながら、ごくりと喉を鳴らした。
-----しん、と沈黙が流れる。
縁側のガラス戸から覗く空は、ゆっくり
と夕暮れを連れてきている。その空の彼方
から、微かに慈鳥の鳴く声が聞こえた。
壁を背に、レイと肩を並べて座っていた
紫月は、何かを口にしようとし、薄く唇
を開いた。彼と過ごした時間はまだ二日。
けれど、その短い時間の中で自分が彼
に抱いた感情は、確実に“恋”と呼べるも
のに変わりつつある。おそらく、最後の
デートを終える頃には、自分は答えを
見つけているだろう。
だったらもう、この気持ちを口にして
もいいのではないか?紫月は一度唇を
閉じ、そうしてまた開いた。
「レイ、私……」
-----たぶん、あなたが好きだわ。
そう口にしようとした紫月の唇は、
それを告げることが出来ないまま、突然
レイによって塞がれてしまった。
「…っむぐ!?」
けれど唐突に、自分の口を塞いだのは
彼の“唇”ではなく、バーニャカウダソース
をたっぷりディップした人参で……。
紫月はそれをむぐむぐと咀嚼しながら、
思いきり顔を顰める。くすくす、と、笑い
ながらレイが紫月の唇の端についたソース
を親指で拭う。そうして、それをペロリと
舐めると、紫月の頬をするりと撫でた。



