恋の終わりは 【恋に焦がれて鳴く蝉よりも・番外編】

 「人間の欲には際限がないからね。お金を
かけようと思えば、いくらでもかけられるし、
それが手に入ったら次はもっと高価な物が
欲しくなる。だから、僕はそれが好きか、
嫌いか、欲しいか、欲しくないかだけでシン
プルに選ぶことにしてるんだ。それがどんな
に安いものでも、気に入っていれば気持ち
は満たされるし、いつまでも大事に使うから
ね。紫月はどう?高価なものを身に付けて
いないと、自分らしくいられない?」

 ストレートに、そんなことを問いかけら
れて、紫月は一瞬、言葉に詰まってしまう。

 彼ほどではないにしろ、膨大な資産を保有
する安永財閥の令嬢として、自分はそれなり
の物を買い与えられてきた。けれど、それら
の物がなければ自分らしくいられないと思っ
たことは、一度もなかった。

 良いものを身に付けているかどうかで、
人の価値が決まるのではない。自分自身を
価値がある存在だと思えるかどうか。

 その気持ちが、人の心を一番裕福にするの
だと紫月は思っている。

 「私自身の価値は、身に付ける物の値段で
決まるわけじゃないわ。だから、好き好ん
で高価な物を選ぼうとは思わない。あなた
と同じように、自分が気に入ったものを選び
たい。それが似合えば、一番いいと思うわ」

 そう答えた紫月に目を細めると、レイは
前を向いてアクセルを踏んだ。車が走り出す。
 フロントガラスの向こうには、澄んだ青空
が広がっている。

 「良かった。僕たちは価値観が似ている
ようだ」

 その言葉に、紫月も頬を緩める。

 レイは惜しみなく、“自分”という人間を紫月
に見せてくれる。それはきっと、好きだから
自分を知って欲しいという、恋い慕う気持ち
からくるものだのだろう。

 そして、一久が進んで自分を見せてくれた
ことは、一度もなかったと………今になって
気付く。気付いてしまえば、また、ちくりと
胸が痛んでしまう。どうして、思い出したく
などないのに、彼のことが頭から離れないの
だろう?

 紫月は緩く唇を噛み、そうして、それを振り
切るようにレイに話しかけた。

 「それはそうと、そろそろ今日の行き先を
教えてくれない?どこに連れていかれるのか、
わからないまま乗っているのも誘拐されて
いるみたいで落ち着かないわ」

 口を尖らせてそう言うと、はは、とレイ
はまた白い歯を見せる。車は東名高速に乗っ
たところで、目的地までどれくらいかかる
のかも、気になる。