「あなたって面白いなぁ……と思って。
だって、こんな高級車乗り回しているのに、
屋台でおでん食べて喜んでるし、すごく
お金持ちの筈なのに、それを感じさせる
身なりも、振舞いも、してないっていうか」
もしかして、失礼なことを言っている
だろうか?と、気になりつつも、紫月は
自分が感じているままを口にする。
なぜなら、紫月はそんな彼が嫌なのでは
なく、そんな“彼だから”惹かれるのだという
ことに、気付き始めていた。
だから、決して悪い意味で言っているの
ではない。大金持ちのくせにケチだ、とか、
そういうニュアンスではなかった。
あはは、と、レイの笑う声がする。
「確かに。僕がしている腕時計はその辺の
電気屋で買った安物だし、着ている服だって
ジャケットは一応ブランド物だけど、イン
ナーはヨニクロだしね。紫月が首を傾げるの
もわかるよ」
やっぱり、と、思いながら紫月はレイの
腕時計を見る。中央部分がスケルトン仕様
になっているそれは、文字盤にローマ数字
が刻まれたアンティーク調のものだ。
けれど、それが高価でないことは、何と
なくわかる。インナーのカットソーも、
上質なものではないと、気付いていた。
「でも、それが良く似合ってるわ。すごく、
ナチュラルな感じがするっていうか……
気取っていないところが、あなたらしい気が
するというか」
また、失礼なことを言ったかも知れない。
受け取り方によっては、“安物が似合う”
と言っているように聞こえてしまう。
けれど、そんな紫月の心配を他所に、
レイはさっきよりも大きな声で、あはは、
と笑った。
「ありがとう。そう言ってもらえると、
すごく嬉しいよ。実はこの腕時計、とても
気に入ってるんだ。こういうスケルトン
仕様の手巻き時計は、20世紀初頭まで、
ごく一部の富裕層しか持つことを許されな
かったという逸話があってね。美しい機械
の駆動を見ることができるのが、富豪の
特権だったらしい。だから、それを現代の
時計メーカーが再現してくれた時は嬉しか
ったし、値段なんて僕にはまったく関係
なかったんだ。このデザインならカジュア
ルな装いでも、スーツでも何でも合うから
重宝してるよ」
得意げにそう語ったレイの腕時計を見やる。
現金なもので、この腕時計は富豪だけの
特権だったと聞かされると、何となく気品
が漂っているように見えてしまう。
そう言えば、初めてホテルで会った時も、
彼はこの時計をしていたような気がする。
そうして、彼のスーツ姿にこの腕時計は
違和感なく、とても馴染んでいた。
「あなたが物を選ぶ基準は、それが高いか、
安いかではないのね。好きだわ、そういう
考えかた」
穏やかな声でそう言った紫月に、レイが
ハンドルを握ったままで彼女を向く。信号
は赤に切り替わり、横断歩道を幾人もの
人々が歩き始めている。
だって、こんな高級車乗り回しているのに、
屋台でおでん食べて喜んでるし、すごく
お金持ちの筈なのに、それを感じさせる
身なりも、振舞いも、してないっていうか」
もしかして、失礼なことを言っている
だろうか?と、気になりつつも、紫月は
自分が感じているままを口にする。
なぜなら、紫月はそんな彼が嫌なのでは
なく、そんな“彼だから”惹かれるのだという
ことに、気付き始めていた。
だから、決して悪い意味で言っているの
ではない。大金持ちのくせにケチだ、とか、
そういうニュアンスではなかった。
あはは、と、レイの笑う声がする。
「確かに。僕がしている腕時計はその辺の
電気屋で買った安物だし、着ている服だって
ジャケットは一応ブランド物だけど、イン
ナーはヨニクロだしね。紫月が首を傾げるの
もわかるよ」
やっぱり、と、思いながら紫月はレイの
腕時計を見る。中央部分がスケルトン仕様
になっているそれは、文字盤にローマ数字
が刻まれたアンティーク調のものだ。
けれど、それが高価でないことは、何と
なくわかる。インナーのカットソーも、
上質なものではないと、気付いていた。
「でも、それが良く似合ってるわ。すごく、
ナチュラルな感じがするっていうか……
気取っていないところが、あなたらしい気が
するというか」
また、失礼なことを言ったかも知れない。
受け取り方によっては、“安物が似合う”
と言っているように聞こえてしまう。
けれど、そんな紫月の心配を他所に、
レイはさっきよりも大きな声で、あはは、
と笑った。
「ありがとう。そう言ってもらえると、
すごく嬉しいよ。実はこの腕時計、とても
気に入ってるんだ。こういうスケルトン
仕様の手巻き時計は、20世紀初頭まで、
ごく一部の富裕層しか持つことを許されな
かったという逸話があってね。美しい機械
の駆動を見ることができるのが、富豪の
特権だったらしい。だから、それを現代の
時計メーカーが再現してくれた時は嬉しか
ったし、値段なんて僕にはまったく関係
なかったんだ。このデザインならカジュア
ルな装いでも、スーツでも何でも合うから
重宝してるよ」
得意げにそう語ったレイの腕時計を見やる。
現金なもので、この腕時計は富豪だけの
特権だったと聞かされると、何となく気品
が漂っているように見えてしまう。
そう言えば、初めてホテルで会った時も、
彼はこの時計をしていたような気がする。
そうして、彼のスーツ姿にこの腕時計は
違和感なく、とても馴染んでいた。
「あなたが物を選ぶ基準は、それが高いか、
安いかではないのね。好きだわ、そういう
考えかた」
穏やかな声でそう言った紫月に、レイが
ハンドルを握ったままで彼女を向く。信号
は赤に切り替わり、横断歩道を幾人もの
人々が歩き始めている。



