そうして、運転席のシートへと腰かけたレイ
を向く。紫月には真っ先に伝えなければならない
ことがあった。
「この間は、ありがとう。あなたが部屋まで
運んでくれたって、母から聞いて驚いたわ。
ごめんなさい。とても、重かったでしょう?」
セルフフレームの眼鏡をかけている、彼の
横顔を覗く。車の運転をするときは、いつも
眼鏡をかけるのだろうか?整った顔立ちに
ボストン型のフレームがよく似合っている。
レイはくすりと笑うと、紫月の頭にぽん、
と、手の平をのせた。
「ぜんぜん、重くなかったよ。むしろ、軽
すぎてビックリした。やっぱり、飲み慣れない
紫月にあの冷酒は強かったね。でも、眠ってく
れたお陰で、僕は紫月の可愛い寝顔を拝ませて
もらえたし、部屋まで送り届けるっていう口実
で、堂々と抱きしめることもできた。僕の方が
礼を言いたいくらいだ」
抱きしめる、だなんて……
そんな言い方をされると、どんな顔をすれば
いいかわからなくなってしまう。紫月は、彼
の真っ直ぐな瞳を受け止め切れずに前を向く
と、淡く笑みを浮かべ俯いた。
「……さて、出発しようか」
その様子を横目でちらりと見ると、レイは
プッシュボタン式のスターターを押した。
エンジンに火が入るのと同時に、セーフティ
ベルトのガイドアームが伸びてくる。
紫月はカチリとベルトを締めると、さりげ
なく車内を観察した。
軽やかに走り出したコンチネンタルGTの
車内は、天然木と本革を惜しげなく使用した
ラグジュアリーな仕立てで、彼が握る革巻き
のハンドルも比較的径が大きいように感じる。
そして、ハンドルの中央には、頭文字の“B”
に翼が生えた、ベントレーのシンボルマーク。
おそらく、数千万円はするであろうこの
高級車のハンドルを握る彼は、世界でも有数
のホテル王なのに、それを鼻にかけるような
ことは、まったくなかった。現に、今日も
ジーパンにベージュのジャケット。その下の
インナーは、たぶん、おでんを食べに行った
時と同じものだ。それらがブランド物かどう
かは、一見しただけではわからないが、何と
なく、紫月は彼が高級品にこだわっている
わけではないのだと理解していた。
「どうした、紫月。大人しいね。もしかし
て車酔いしてる?」
そんなことを考えていた紫月の耳に、レイ
の声が飛び込んでくる。彼は前を向いている
が、ちらちらと自分の様子を窺っている。
紫月は、くすりと笑って、小さく首を振った。
「ううん。ちょっと考え事していただけ」
「考え事?なにを?」
そう問いかけるレイの目は、笑んでいる。
どんな話が紫月の口から聞けるのか?
愉しんでいる感じだった。紫月は少しだけ
考えると、訥々と話し始めた。
を向く。紫月には真っ先に伝えなければならない
ことがあった。
「この間は、ありがとう。あなたが部屋まで
運んでくれたって、母から聞いて驚いたわ。
ごめんなさい。とても、重かったでしょう?」
セルフフレームの眼鏡をかけている、彼の
横顔を覗く。車の運転をするときは、いつも
眼鏡をかけるのだろうか?整った顔立ちに
ボストン型のフレームがよく似合っている。
レイはくすりと笑うと、紫月の頭にぽん、
と、手の平をのせた。
「ぜんぜん、重くなかったよ。むしろ、軽
すぎてビックリした。やっぱり、飲み慣れない
紫月にあの冷酒は強かったね。でも、眠ってく
れたお陰で、僕は紫月の可愛い寝顔を拝ませて
もらえたし、部屋まで送り届けるっていう口実
で、堂々と抱きしめることもできた。僕の方が
礼を言いたいくらいだ」
抱きしめる、だなんて……
そんな言い方をされると、どんな顔をすれば
いいかわからなくなってしまう。紫月は、彼
の真っ直ぐな瞳を受け止め切れずに前を向く
と、淡く笑みを浮かべ俯いた。
「……さて、出発しようか」
その様子を横目でちらりと見ると、レイは
プッシュボタン式のスターターを押した。
エンジンに火が入るのと同時に、セーフティ
ベルトのガイドアームが伸びてくる。
紫月はカチリとベルトを締めると、さりげ
なく車内を観察した。
軽やかに走り出したコンチネンタルGTの
車内は、天然木と本革を惜しげなく使用した
ラグジュアリーな仕立てで、彼が握る革巻き
のハンドルも比較的径が大きいように感じる。
そして、ハンドルの中央には、頭文字の“B”
に翼が生えた、ベントレーのシンボルマーク。
おそらく、数千万円はするであろうこの
高級車のハンドルを握る彼は、世界でも有数
のホテル王なのに、それを鼻にかけるような
ことは、まったくなかった。現に、今日も
ジーパンにベージュのジャケット。その下の
インナーは、たぶん、おでんを食べに行った
時と同じものだ。それらがブランド物かどう
かは、一見しただけではわからないが、何と
なく、紫月は彼が高級品にこだわっている
わけではないのだと理解していた。
「どうした、紫月。大人しいね。もしかし
て車酔いしてる?」
そんなことを考えていた紫月の耳に、レイ
の声が飛び込んでくる。彼は前を向いている
が、ちらちらと自分の様子を窺っている。
紫月は、くすりと笑って、小さく首を振った。
「ううん。ちょっと考え事していただけ」
「考え事?なにを?」
そう問いかけるレイの目は、笑んでいる。
どんな話が紫月の口から聞けるのか?
愉しんでいる感じだった。紫月は少しだけ
考えると、訥々と話し始めた。



