恋の終わりは 【恋に焦がれて鳴く蝉よりも・番外編】

 「そう言ってもらえると、僕も嬉しいよ。
実は、あの屋台を見た紫月が落胆したらどう
しよう?って不安が、少しはあったんだ」

 「えっ、そうなの?」

 「まあね。その素敵なスカートが汚れてしまわ
ないかも、心配だったし」

 ふわりと風に揺れているスカートを見やる。

 踝辺りまであるロングスカートは、座る時に
地べたにつかないよう、紫月は少し膝に巻き込ん
で座っていた。丸椅子にはレイがハンカチを敷い
てくれたし、汚れる心配もなく安心しておでん
を食べることができた。

 「あの屋台を見たときは正直、ちょっと驚いた
けど、でも本当に連れてきてくれて嬉しかった
の。両親や友人と行く店は、いつも有名な割烹
料理店か高級レストランだし。こんな風に、
お店のおじさんとお喋りしながら食事をする
なんて、初めての経験よ。次はもっとラフな
洋服で来てゆっくり味わいたいわ」

 そう言って、腕の中からレイを覗く。

 すると、待っていたのは慈しむような優しい
眼差しで、いつからそんな風に見つめていたの
だろう?と思えば、また別の意味で頬が熱く
なってしまう。

 紫月は恥ずかしさから、ふい、と視線を
外した。

 考えてみれば、3回目のデートを終えた時に
自分の気持ちがレイに向いていなければ、“次”
などないのだ。だからと言って、今、答えを
問われれば、自分は“わからない”としか答えよう
がない。



-----好きか、そうでないかは、まだわからない。



 彼はきっと、それをわかったうえで、自分の話
を聞いてくれているのだろう。

 だから、紫月はそれ以上、何も言えなくなって
しまった。

 「帰りはタクシーを拾おうか。大通りに出れば
すぐに捕まるだろうし」

 紫月の心中を察したのか、話題を変えるように
そう言ってレイは遠くを見やった。綺麗にライト
アップされている並木道を過ぎれば、公園の出口
はすぐだ。ぽつぽつと、行き過ぎる人影の中に
は、寄り添い、手を繋いでいる恋人たちもいる。

 自分たちもきっと、そう見えているに違い
ない。
 紫月は彼の腕の中でこくりと頷くと、そのまま
彼に身体を預け、ゆっくりと歩いた。公園を出、
彼が止めてくれたタクシーに乗り込む。

 「眠っていいよ。ついたら起こすから」

 そう言って、彼の手が紫月の頭を肩へと寄せ
てくれる。



-----記憶があるのは、そこまでだった。



 紫月は心地よい振動に目を瞑ると、深く、
穏やかな眠りに落ちていった。








 「おはよう。すっかり酔いは醒めたの?」

 翌朝。
 重い頭を抱えながらも、何とか目覚まし時計
を止め、ベッドから這い出すと、紫月はのろ
のろといつものパンツスーツに着替え、リビン
グへと下りた。冷たい水で顔を洗い、髪を梳か
したが、まだ、化粧は施していない。