その姿が、“安永の令嬢”という枠組みの中で
つつましく生きてきた紫月には、眩しかった。
-----不思議な人。
紫月は笑い合う二人を眺めながら、ふと、
一久を思い出した。
彼もまた、サカキグループの跡取りとして、
さまざまなものを背負いながらも、その重圧
を噯にも出さない、鷹揚とした人だった。
けれど、レイとはまるでタイプが違う。
自分の隣に立つ彼はいつも毅然としていて、
こんな風においそれと素顔を晒したりはしな
かった。もしかしたら、自分以外の“誰か”に
は見せていたのかも知れないけれど……
ひとり、そんなことを思って口を噤んでいた
紫月の顔を、突然レイが覗き込んだ。
はっとして、紫月は思わず身を引いてしまう。
思ったよりも彼の顔が近くて、驚いてしまった。
「どうした?紫月。酔いが回った?」
気遣うように、レイが紫月の背中を擦ってい
る。紫月は「ごめんなさい。大丈夫よ」と言おう
として、やはり、やめた。レイと一緒に、二杯目
の冷酒を半分飲んだ辺りから、身体がふわふわ
している。かなり、酔いが回っているらしい。
「ごめんなさい。ちょっと飲み過ぎてしまった
みたい。おじさん、お冷をいただけるかしら?」
頬に手をあてながらそう言うと、店主は
「はいよ」と返事をし、すぐに紫月の前にお冷
を置いた。
紫月はそれを一気に飲み干す。
酔って舌の感覚が鈍くなっているのか、
お水を飲んでいるというのに、お水を飲んだ
気がしない。
「冷え込んで来たし、そろそろ行こうか。
オッちゃん、勘定お願いできる?」
「はいよ。サラダはサービスにしとくけぇ、
また来てな」
少し名残惜しそうにそう言って、店主が電卓
を叩く。紫月は空っぽになったコップを台の
上に置くと、「ご馳走さま。また来ますね」と、
頬を赤く染めたまま、笑みを返したのだった。
店を出て園内を歩き始めると、思いのほか
足元がふらついた。足元のおぼつかない紫月
の肩を、抱きかかえるようにしてレイが支えて
いる。
紫月は申し訳ないと思いながらも、彼に身体
を預け、夜空の下を歩いた。
「ごめん。二杯目は止めるべきだったね」
頭の上からそう声がして、紫月は首を振る。
「ううん。すごく楽しかったから、つい飲み
過ぎてしまったの。おでんも美味しかったし、
おじさんとのお喋りも楽しかった。こんなデート
初めてよ。ほんとうに」
素直に思ったままを口にすると、自分を支える
レイの肩が小刻みに揺れた。笑ったのだと……
身体越しに紫月に伝わる。
つつましく生きてきた紫月には、眩しかった。
-----不思議な人。
紫月は笑い合う二人を眺めながら、ふと、
一久を思い出した。
彼もまた、サカキグループの跡取りとして、
さまざまなものを背負いながらも、その重圧
を噯にも出さない、鷹揚とした人だった。
けれど、レイとはまるでタイプが違う。
自分の隣に立つ彼はいつも毅然としていて、
こんな風においそれと素顔を晒したりはしな
かった。もしかしたら、自分以外の“誰か”に
は見せていたのかも知れないけれど……
ひとり、そんなことを思って口を噤んでいた
紫月の顔を、突然レイが覗き込んだ。
はっとして、紫月は思わず身を引いてしまう。
思ったよりも彼の顔が近くて、驚いてしまった。
「どうした?紫月。酔いが回った?」
気遣うように、レイが紫月の背中を擦ってい
る。紫月は「ごめんなさい。大丈夫よ」と言おう
として、やはり、やめた。レイと一緒に、二杯目
の冷酒を半分飲んだ辺りから、身体がふわふわ
している。かなり、酔いが回っているらしい。
「ごめんなさい。ちょっと飲み過ぎてしまった
みたい。おじさん、お冷をいただけるかしら?」
頬に手をあてながらそう言うと、店主は
「はいよ」と返事をし、すぐに紫月の前にお冷
を置いた。
紫月はそれを一気に飲み干す。
酔って舌の感覚が鈍くなっているのか、
お水を飲んでいるというのに、お水を飲んだ
気がしない。
「冷え込んで来たし、そろそろ行こうか。
オッちゃん、勘定お願いできる?」
「はいよ。サラダはサービスにしとくけぇ、
また来てな」
少し名残惜しそうにそう言って、店主が電卓
を叩く。紫月は空っぽになったコップを台の
上に置くと、「ご馳走さま。また来ますね」と、
頬を赤く染めたまま、笑みを返したのだった。
店を出て園内を歩き始めると、思いのほか
足元がふらついた。足元のおぼつかない紫月
の肩を、抱きかかえるようにしてレイが支えて
いる。
紫月は申し訳ないと思いながらも、彼に身体
を預け、夜空の下を歩いた。
「ごめん。二杯目は止めるべきだったね」
頭の上からそう声がして、紫月は首を振る。
「ううん。すごく楽しかったから、つい飲み
過ぎてしまったの。おでんも美味しかったし、
おじさんとのお喋りも楽しかった。こんなデート
初めてよ。ほんとうに」
素直に思ったままを口にすると、自分を支える
レイの肩が小刻みに揺れた。笑ったのだと……
身体越しに紫月に伝わる。



