恋の終わりは 【恋に焦がれて鳴く蝉よりも・番外編】

 「美味しい!」

 思わずそう言って頬を緩めると、隣で大根
を食べていたレイが目を細めた。

 「それさ、味変があるんだよね。オッちゃん、
そろそろ出してくれるかな?」

 「はいよ。味変ね」

 レイがそう言うと、店主は何やらタッパー
を取り出し、その中身をスプーンですくって
皿に盛った。どうやらサラダのようだ。
 「はい」と出された小鉢には、スプーンの形
そのままの、冷たい里芋サラダが盛られていた。

 「これね、一度食べたらクセになるよ」

 レイがそう言って促すので、紫月はこくりと
頷いてサラダに箸をつける。里芋はおでんの
具と同様にしっとりと柔らかい。そして、卵が
入っているのか、ところどころに刻んだ白身や
黄身が見えた。

 「いただきます」

 と、小声で言ってサラダを口に入れる。

 二人が見守る中、もぐもぐと口を動かすと、
しっかりと味付けされたゴマみそ風味のサラダ
が、口の中に優しく広がった。

 「うん。コクがあって、凄く美味しい!」

 にっこりと笑ってそう感想を口にすると、

 「でしょう?」

 と、満足そうにレイが頷いた。おじさんは、
得意そうに腰に手をあて、うんうん、と頷い
ている。

 「旨いじゃろ?それな、おでんの具をそのま
ま加工して作ったサラダなんよ。みそとゴマと
マヨネーズでちょいと味付けしてな」

 「そう。だから、“味変サラダ”ってわけ。
これがあると、お酒が進むんだよね。僕も
あまり日本酒は得意ではなかったんだけど、
オッちゃんのおでんとこのサラダには、この
冷酒がよく合うんだ」

 そう言って、レイも里芋サラダを口に入れる。
 そうして、それを飲み込むか飲み込まないか
のうちに日本酒で流し込むと、ふぅ、と息を
ついて笑んだ。

 「本当ね。冷酒によく合うわ」

 ほんのりと白い頬が赤く染まり始めたように
見えるレイの横顔を見、紫月もまた冷酒に
口をつける。濃い味の里芋サラダに辛口の
さっぱりとした日本酒が合っている。
 紫月は、二口、三口と冷酒を喉に流し込む
と、はあ、と息を吐き、頬を緩めた。




 それからも、おでんを突きながら、酒を飲み
ながら、紫月は煌々と灯りの漏れる屋台の下で、
楽しいひと時を過ごした。

 想像していたデートとはまったく違ったが、
それが新鮮でとても楽しい。寒空の下で、こう
して屋台の店主と取り留めのない話をするのも
初めてだし、ましてや、外食でおでんを食べる
なんてのも紫月は初めてだった。掠れたコップ
を手に、からからと笑うレイは気さくで気取っ
た風もなく、おそらく、彼が世界的にも有名な
ステイゴールドのCEOであることなど、知ら
ないのだろう。二人は軽口を叩き合い、まるで
友人のように話している。