「亜紀」

「理樹さん、私怖いんです、手術が終わって目が覚めたら自分がどうなっているか、とても不安なんです」

亜紀は泣き出した。

こんな亜紀を見るのは初めてだった。

いつも俺の事を一番に考えてくれた亜紀。

取り乱したところは見た事がなかった。

俺はギュッと亜紀を強く抱きしめた。

「亜紀、大丈夫だよ、手術はすぐに終わって、麻痺なんかなくて、すぐに日本に帰れるよ」

この日の夜、亜紀はずっと啜り泣いていた。

まるで小さな子供のように俺の腕の中で。

次の日、亜紀の手術が始まった。

とても難しい手術の為、永い時間がかかった。

手術は成功した。

麻痺も神経を傷つける事が少なくて済み、最小限に抑えられるだろうとの事だった。

俺と亜紀は日本に戻る事が出来た。

しかし、亜紀の術後の後遺症は、麻痺はリハビリでなんとか回復するとのことだったが、認知機能障害が出てしまったのである。

つまり、自分のことはもちろんだが、俺の事を覚えていないのである。