『ドクター』と聞いて真っ先に武石先生の顔が頭に浮かんだけど…まさかね。
「じゃあ忙しくなるみたいだから、わたしもう帰ろうか?」
気遣うつもりで言った言葉に天音は険しい顔で首を横に振る。
そしておっちゃんも、
「凛々ちゃん、そんなに気遣わないで?凛々ちゃんが帰っちゃったら天音が使い物にならなくなるから寧(むし)ろ居て」
お願いっ!と、頭まで下げられちゃったら帰るに帰れない。
それでも「う〜ん」と悩むわたしに、トドメと言わんばかりにおっちゃんが、
「おつまみなら何頼んでもタダにするから。ねっ?」
と囁いてきて、わたしは直様(すぐさま)「居ます!」と答えた。
程なくしてドクター御一行様(ごいっこうさま)がぞろぞろ来店してきた。
どうか武石先生が勤めている病院とは違うところのドクターと看護師さん達でありますように。
もし武石先生がいてもわたしの存在に気付きませんように。
そう祈りながらひたすら気配を消したつもり…だったんだけど、
「あれ、凛々ちゃん?」
ふたつの祈りは見事に木っ端微塵となった。


