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「ヒック…、おっちゃん、おかわりぃ!」

ダンッ!勢いよくビールジョッキをテーブルに叩きつけるように置いておかわりを要求した。

「…凛々ちゃん、もうダメ。飲み過ぎ」

「だぁ〜いじょうぶだも〜ん!もう飲み過ぎて怒る彼氏も居なくなったしぃ」

「…その彼氏、凛々ちゃんが病気持ちなの知ってて付き合って婚約するって流れになっていたのに、サイテーよね」

「そぉ!そんなサイテー野郎を一刻も早く忘れる為にはビールが必要なの!だからおかわり頂戴っ!」

「だーめ!もう閉店時間なんだから帰った帰った!」

「ええ〜っ」

ここは行きつけの小さな居酒屋。開店当時から通っているから店長とは仲良しで週3回ぐらいのペースで飲みに来ている。

特に今日起きた出来事は飲まないと狂いそうだったから自分史上最高に飲んで酔っ払った。

「帰りたくないぃ〜」

「駄々こねるんじゃないっ」

店長とギャアギャア言い合っていると

「店長。俺が凛々サンを家まで送って行きますよ」

「お。王子じゃん」

わたしと店長の間に入ってきたのは、わたしが勝手に「王子」と呼んでいる男の子。

現役の高校生だと言うこの子は店長の甥っ子らしく、小遣い稼ぎに時々こうしてお店の手伝いをしているのだそうだ。

何故わたしがこの子のことを「王子」と呼んでいるのかは、その容姿の美しさからだった。

少年から青年に変わる境目にいる彼は、少し茶色に染めた髪に片耳にだけ開けているピアスが何とも色気があり、とどめの涙黒子(なみだぼくろ)が全ての女性を魅了するちからを持っている。