メイクをしてみたかったのも、大人っぽくなりたかったのも、可愛くなりたいと思ったのも。

それはぜんぶ、この人からのそんな言葉を聞きたかったから。


そう言って欲しかったからだ。



「脚を触られてたのも、抱きしめられてたのも…嫌です、嫌だ。
頬にキスされてたのだって、嫌でした」



わたしと同じだ……。

自分にされたことも嫌だけど、恵美先生と仲良く話してるハヤセを見ると嫌なんだよ。

胸がチクチクして苦しくなってギッスギス。



「舞踏会、あいつが来ても……踊らないでください」



顔が見たい。
ハヤセが今どんな顔してるのか見たい…。

覗き込むように傾けてみると、居たたまれなさそうにスッと逸らされてしまった。



「うんっ。わたしずっと誰とも踊らずに1人で立ってる!」


「…はい、そうしてください」



もう1度、耳に寄せられた唇。

ピクッと無意識にも反応してしまうと、もっと出させるかのように近づけてくる。



「だからこの先も───…俺の言うとおりにしてください、お嬢様」



前に言ったとおり。

わたしに動かされているのがこの人なんじゃなくて、わたしをいつも動かすのが彼なのだ。



「もしそれでも大人になりたいのなら……心配しなくても俺が近いうち女にしてやる。───…こんなふうに」


「えっ、ひぁ…っ!」


「…ほら少し女の声が出ましたね、エマお嬢様」



ハヤセのこんな顔、仕えるお嬢様だから見れるんじゃなくて。

ただのわたしだから見れる顔だったらいいなぁ…。