「ロジアン様!」

思わず声を上げたジェシカに、呼ばれたロジアンが驚いている。

「まあまあまあ、ジェシカさんじゃないの。あら、なんて素敵なの! あなたまるで妖精のようよ。よく似合ってるわ」
「本当ですか? よかった」

友人のストレートな賛辞に、思わずジェシカは頬を緩めた。

「ウエディングドレスの打ち合わせかしら?」
「そうなんですけど……」

本来なら幸せいっぱいな時期のはずなのに、ジェシカの表情がわずかに陰ってしまったことに、ロジアンは首を傾げた。

「どうかしたの?」
「……なかなか、決められなくて」

惚気や浮足立ったものとは違う。これが幸せな悩みでないと気づいたロジアンは、ジェシカに近付いてそっと背中に手を当てた。

「悩み事でもあるのかしら?」
「……」

天真爛漫なジェシカが言葉を発しないなど、珍しいことだ。

「ジェシカ!」

そこへ、遅れてフェルナンもやってきた。

「まあ、フェルナン様も。おふたりで選んでいらしたのね。私も、友人として参加しちゃおうかしら。それともお邪魔虫かしら?」

言い方こそ茶目っ気たっぷりだったものの、目が笑っていない。たとえ戦の鬼と呼ばれたフェルナンとて、これを断る勇気はない。

ロジアンは、自身の言う通りジェシカの友人だ。今もなお、ジェシカは彼女の元へ通ってマナーを習っている間柄。〝報酬は、ジェシカさんが私とのお茶に付き合うこと〟と、金銭は一切受け取らないどころか、毎回珍しい菓子をふるまうほど、ロジアンはジェシカを気に入っている。そういった点からも、ロジアンの提案を断ることは到底できない。

「邪魔なはずがありませんよ。どうぞ、一緒に見てやってください」

ロジアンを伴って元の部屋へ戻ると、改めてジェシカの今着ているドレスのチェックをした。

「ジェシカさん、すっごく素敵よ。そうねえ……袖はなくてもいいかもしれないわ」

半袖部分をひょいッとつまんだロジアンは、一層のことノースリーブの方がいいと言う。その意見に、店主も大きく頷いた。

「それもよさそうですわね。お若いので、そのようなデザインも違和感なく着こなせる思いますわ」
「スカートの部分は、今流行っているという前面を少し短めにして、後ろを長くするのもいいわね」
「ええ。そう言ったデザインもさきほど試着されましたが、それはもうとてもお似合いでした」

気づけばロジアンと店主は、ジェシカに近付いたり離れたり、横へ回ったり背後へ回ったりしながら、次々と意見を言い合って大盛り上がりしていた。
次第にフェルナンの顔から笑みが消えていく。それにジェシカが困惑していることには、誰も気付いていない。